第43話 小さくなるタイプだから

 智介ともすけのステータスオープン。オーブンが出てきたり、巨大なステータスウィンドウが出てきたり、意味のわからない挙動を示すやつ。


 ゲームで言うバグ技みたいなものだ。しかもなにが起こるか、さっぱりわからないバグ技。


 しかし相手が強いのだそれに頼るしかない。


「ステータスオープン!」智介ともすけは大声で叫んで、「……あれ……? ステータス……? おーい……」


 なんの反応もなかった。智介ともすけが突然叫んだことに驚いたのか、闘技場全体が静まり返っていた。


 ……


 ……


 ……


 あれ……? なにも出てこない。なんで?


「あの……ステータスウィンドウさん……? おーい、聞こえてる? なんで出てけぇへんの……?」

「……お兄さん……なに言ってるの……?」ソプラノに呆れられた。「ステータス……? それって自分にしか見えないんじゃないの……?」

「そうらしいけど……そうやないねん。ちょっと違うねん」

「……なにが?」

「……ちょっと待ってな……」智介ともすけは虚空に話しかけて、「ステータスさん? 聞いてる? ちょっと出てきてほしいんやけど……」


 ……なんか観客から笑われてる気がする……面白いなら何よりだ。


 しばらくして、智介ともすけの眼の前にステータスウィンドウが現れた。


【ごめん。寝てた】

「ああ……いやいや。全然大丈夫やで」

【もうデートの時間?】

「恋人か」ツッコんでしまった。「ちょっと手伝ってほしいことがあんねん」

【なに? またコント?】

「コントはええから――」待てよ……? コント? 「なぁウィンドウさん……キミ、そのウィンドウに映像とか映し出せる?」


 それができるなら1人でコントができる。笑いのニューウェーブに一歩近づける。


【どうだろう……やったことないから、わからない】少なくとも文字は出せるのだ。【必要?】

「必要になるかも知れへん」

【わかった。練習しとく】

「おう。ありがとうな」

【全然いいよ。じゃあね】


 ああ……これでコントが一歩進んだかもしれない。映像が使えるのなら、今まで智介ともすけが考えたネタを再構成することも可能だろう。


 ……


 ……


 ……


「って違う……!」今はコントの話は後回しだ。「ちょっとウィンドウさん……! もう一回出てきてくれ……!」

【なに?】

「この間みたいにデカくなられへん?」


 デカいウィンドウで押しつぶすのだ。ソプラノなら死にはしないだろう。


【大きさのコントロールはまだできない。前回も、大きくしようと思ってたわけじゃないの。勝手に大きくなっちゃっただけ】

「勝手に大きくなった……?」

【そうそう。あのときは意識もボンヤリしてたからね。しかも急に呼びされて困惑してた。さらに戦闘中で興奮してたというか……】

「なるほど……感情に合わせて大きさが変わんのかな……? 興奮すると大きくなるってことかもな……」


 最近はまともな大きさで出現していることを考えると……やはり感情が大きく関係しているのだろう。


 智介ともすけが大真面目に考察していると、ソプラノが困惑しきった様子で、


「……お兄さん……なんで急に下ネタを……?」


 下ネタ……? なにが下ネタなんだ? ウ◯コハチマキは外してるが……


 ……


 ……


 このウィンドウの文字は大きさ的に智介ともすけしか見えていない。つまり他の人達は智介ともすけの独り言を聞いている形だ。


 感情に合わせて大きくなる……興奮すると大きくなる……


「いや……! そういう意味ちゃうねん……!」おち◯ちんの話じゃなくて……! 「信じてくれ……! 事故や、事故! 勘違い!」

【そうだよ。智介ともすけは緊張すると小さくなるタイプだから】

「なんで知っとんねん……!」なぜ下半身事情までバレているんだ……! 「というかホンマに下ネタちゃうねんて……!」


 下ネタは嫌いではないが、勝手に下ネタになってしまうのは嫌だ。下ネタなら最初からそれで勝負したい。


 ……


 ソプラノが首を傾げてから、


「……そろそろ攻撃してもいい……?」

「待ってくれぇ……!」情けない声が出た。「ああ……うまくいかんもんやなぁ……」


 せっかくの異世界なのだから、もっとイメージ通りにいけばいいのに。ここでパーっと無双してカッコつけさせてくれ。


「……変な人だなぁ……」ソプラノが言う。「もう待ってられないから……攻撃するよ?」

「待ってくれラーメン奢るから……!」

「らーめん? なにそれ」そうだコイツはアルトじゃなかった。「キミが強くないなら興味ない。ボクの人生に君は必要ない」


 それはそうだろうけれど。


 ともあれソプラノがまた地面を蹴って智介ともすけに襲いかかってきた。


 先程の踏み込みよりも強烈だった。どうやら前回は、アレでも手加減していたらしい。


――避けきれない――


 直感でそう思った。


 だがその拳は智介ともすけには当たらなかった。意外なものがソプラノの拳を代わりに受けてくれた。


「え……?」

 

 それはだった。ウィンドウが高速で移動して、ソプラノの拳を受けたのだった。


 そして……


 ウィンドウは吹き飛ばされて、壁を突き抜けた。そしてそのまま屋敷の外までぶっ飛んでいきましたとさ。


 ……


 ……


「え、ちょ……大丈夫……?」 


 ウィンドウに話しかけるが、ステータスウィンドウは出現しなかった。


 ……


 あれ……? ワシのウィンドウ、破壊された?

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