第9話 教えてやる
「まぁ……アレやな。異世界やからな。これまでの常識が通用しないのも当然やな」むしろ通用するほうがおかしいかもしれない。「この世界は結構狂ってる世界っぽいな……じゃあ、思いっきりツッコんでいったほうがええんかなぁ……」
まともに考えるより、強引にでもツッコんだほうが話が早く進みそうだ。今度はそうしてみよう。
「あ、そんなこと言ってたら……また人が来たな。さっきのサムライにも街の方向を聞いたけど、念の為にこの人にも聞いとこ」
遠くから近づいてくる人を眺めながら、
「お……結構な大人数やな。兵士みたいな人も見えるし、貴族様かなんかかな?」
だとしたら好都合かもしれない。こういう異世界系では、大抵の場合貴族に気に入られるのだ。そうなればお金には当面は困らないだろうし、さっさと声をかけてしまおう。
……
しかし……またずいぶんと歩行速度が遅い。馬車を人が引いているのだろうか?
人影が視認できる距離にまで近づいてきた。
きらびやかな衣装に身を包んだ貴族風の男がいた。それを取り囲むように屈強な兵士が5人ほど存在していた。防御力の高そうな鎧を来ていて、どいつもこいつも強そうだった。
……どうやら本当にお偉いさんらしい。鋭い目つきに、間違いなく美男子だと断言できる容姿。
年齢は20代後半くらいだろうか……? まだ若いように見えるが、その迫力は本物だった。
……大物やな……
……
さてその大物貴族に声をかけようとして、その前にツッコミを入れておく。さすがにこの状況はツッコミ待ちだろう。
「いや、なんで人に乗っとんねん! 自分で歩け!」
その大物貴族様は1人の少年に座っていた。
10歳くらいの少年だった。その少年は四つん這いになりながら、少しずつ前に進んでいた。膝から、足から、両手から血が流れていた。
とても痛々しい姿だった。両手両足がガクガクと震えていて、呼吸も荒い。体力的には限界を超えているだろうに、まだ一歩ずつ前に進んでいた。
そこに対してツッコんだ直後、
「なんだキサマは……」大物貴族様が
「え……?」あれ……? なんか嫌な予感が……「あの……自分の足で歩いたほうが、早いですよ……?」
「……そんなことがわからないように見えるか?」
「あ、スンマセン……」
最悪や……! ツッコミのタイミング間違えた! どうやらここはツッコミどころじゃなかったみたいだ! 基準がわからん……!
「無礼者め……!」大物貴族様は兵士に言う。「この無礼者をひっ捕らえろ。俺に逆らえばどうなるか……教えてやる」
鋭い目つき。そして素早い身のこなしだった。連携も完璧で、
……
……
マズイ。これはやってしまったか? 不用意にツッコんだ結果、死んだか?
……
凄まじい殺気だった。
ここからどうする……? どうしたらこの場から逃げられる……?
悩む
それを見て
「だから逆や!」この兵士たちも刃を握って、柄をこちらに向けていた。「なんで刃を握んねん! 痛いやろ、それ!」
兵士の一人が言う。
「そ、そうか……! こっちを握ればいいのか……!」
「なんで気づかへんねん……!」もう意味がわからない……「ちょっとまってくれ……なんやこの状況……」
どこをツッコんで、どこをスルーすればいいのだろう。さっぱりわからない。
……
アカン……もうわからん。この世界がわからん。
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