第8話 そういう流派もあるのか?

 そのまま人間が馬車を引いて去っていった。馬がいなくなった馬車は軽くなったようで、先程よりスピードが早かった。


 ……


 馬車要素はないな……もう馬もいないし。


 そしてまた1人になって、智介ともすけは頭を抱えた。


「うわ最悪や……! 意味わからん世界に来てしもうた……」陣◯のコントの世界より狂ってる世界だ。しかも彼のコントほど面白くない。「いったいどうしたらええんや……街に行くのが不安でしゃーない……」


 最初に出会ったのが、あの馬車の人と馬なのだ。街に行けば、どんな狂った世界が待っているのだろう?


 そもそも街はどっちやねん……さっきの馬に聞いとけばよかった……いや、あれの言う事を信用してもいいのか……?


「まぁしょうがないな。次に通る人はちゃんとした人かもしれんし、次の人を待とう」というわけで智介ともすけがしばらく待つと、「お……なんかサムライみたいな人が来たな。あの人に聞いてみよう」


 現れたのは腰に刀を帯びた男だった。精悍な顔つきで、かなりの実力者であるように見えた。


 しかも手のひらには無数の傷が見えた。かなりの鍛錬を積んでいるのだろう。あるいは死線を越えてきたか。


 智介ともすけはサムライに向かって、


「あの、すいません。街がどっちにあるか、聞きたいんですけど」

「……」言葉が通じないのかと思ったが、「北に歩けば行き着く」


 ぶっきらぼうだが答えてくれた。しかも北の方角まで指さしてくれるという優しさである。


「ありがとうございます」


 智介ともすけが頭を下げると、サムライが、


「お前は旅人か?」

「旅人……まぁ、似たようなもんですかね」

「ならば……1つ質問に答えよ」質問……この人には助けてもらったし、恩返しをしよう。「俺は見ての通り刀を使って戦うのだが……今まで一度も勝利したことがなくてな」


 その雰囲気で?というツッコミは踏みとどまった。真剣に戦っているのなら失礼だろう。


 サムライは続ける。


「旅人なら、多少は腕に覚えがあるだろう? 俺と手合わせをして、勝利できない原因を探ってくれ」


 そう言ってサムライは刀を抜いた。


 いやワシは戦闘能力とかないんで……と言い訳しようと思った。


 だが、それより先に別の言葉が出てきた。


「逆や……!」何度このツッコミをすることになるのだろう……「なんで刃のほう握っとんねん……! 柄を握って」


 サムライは刀の握っていた。そして柄をこちらに向けていた。


 当然のことながらサムライの手からは血が溢れ出ていた。


 ……


 ボケやとしたらおもんないし、真剣ならアホすぎる。


「む……?」サムライは真面目な表情で、「なんの話だ?」

「いや、だから……」智介ともすけは身振りを交えて、「逆です。ワシに向けてるところを握ってみてください」

「そういう流派もあるのか? 世界は広いな」


 こっちのセリフである。


 ともあれサムライはアドバイスのとおり柄を握って、


「な、なんと……!」感嘆の声を上げていた。「手が痛くないぞ!」

「はよ気づけ……!」遅すぎるやろ気づくの。「なんで今まで気づかへんの……?」

 

 智介ともすけのツッコミはサムライには届いていないようだった。


 サムライは尊敬の眼差しを智介ともすけに向けて、


「あなたは天才だ! まさに革命だ! 救世主様だ!」

「恥ずかしいて……」こんなことで天才とか言われる必要はない。「……いや……ホンマになに? この世界……」


 完成度の低いWEB小説の世界? いやいや……Web小説もネタにされること多いけど、なんだかんだおもろいからな? こんな意味不明な世界はないからな? 


 それと動画投稿サイトやらでWeb小説発祥の作品を貶してるやつと、コメント書き込んでるやつら。文句があるなら自分で書け。あるいは見るな。なんでお前一人のために作品が提供されてると思ってんだよ。好きな作品だけ読んでればいいんだよ。


 閑話休題。


「ありがとう旅人よ」サムライは感動冷めやらぬ様子で、「お礼に、この国宝に指定されている刀をやろう」

「だからもらわれへんって……」というか国宝多いな……「この程度でお礼とかいらんから……」

「むぅ……なんと思慮深いお人だ。やはり賢い人間は懐が深い」

「いや、あの……」


 だから恥ずかしい。この程度でべた褒めされんのは恥ずかしい。


 智介ともすけは褒められるときは自分も納得できる成果を出していないと、納得できないタイプだ。


 今回はどう考えても納得できる成果ではない。アホみたいな状態にツッコんだだけだ。

 

 ……


 いったい自分の異世界生活はどうなってしまうのだろう……こんなアホみたいな世界に来てしまって……

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