第4話 一緒にいても
街の中、
「いろいろあったけど……取りあえず今日のデートに集中せなアカンな。それにしてもマキから呼び出してくれるなんて、珍しいこともあるもんやな。気合い入れていかなアカンな」
仕事がなくなろうが干されようが、マキは
いつもデートは
できる限りの一張羅に身を包み、
「おまたせ」しばらくして、カジュアルな服装に身を包んだマキがやってきた。「急に呼び出してゴメンね。ちょっと伝えたいことがあって」
「お、おう……」伝えたいことはなんだろう。緊張してしまう。「マキからの呼び出しなら、いつでも嬉しいよ」
「ありがとう」
相変わらず素朴な笑顔であった。
そして彼女のトレードマークでもある黒い日傘。彼女は昼間に出歩くとき、絶対に日傘を持ち歩く。紫外線対策、というやつだろう。
彼女はその笑顔のままに言った。
「……最初に伝えないと言いづらくなるから、言うね」なにを言われるのだろう。「私たち、別れよっか」
……
……
なんか嫌な予感はしてたけどさぁ……なんとなく、そんな雰囲気はあったけどさぁ……
……
マキは言う。
「あんまり驚かないんだね」
「……予想はしとったからな……」
「ん……」マキはあくまでもいつも通りに、「売れないとか、お金がないとか……そうじゃないよ。それは出会った頃と変わってない」
それはそう。
「……じゃあ、なんで?」
「……
なぜ今さらそんなことを聞くのだろう。
「それは……人の笑顔が好きやから」人の笑顔が見たい。だから自分のネタで笑わせたい。「笑われたってええねん。それでその人が笑顔になってくれるなら」
「うん」マキは頷いてから、「別れる理由は……
……笑顔になれない……
「……そりゃワシは……おもんないことを言うことも多い。スベることだってあるけど……結構マキのことを笑わせてたと思ってたんやけど……」
マキはよく笑ってくれる人だった。
それらはすべて愛想笑いだったのだろうか?
「
……ボケる以上、スベるのは仕方がない。それを怖がっていたらお笑いはできない。100スベリ1ウケだ。100回スベって、1回でもウケるのなら
マキは続けた。
「面白いとか、面白くないとか……そういう話じゃないの」
「……でも笑顔になれないって……」
「ありがとね、
そのままマキは背中を向けて、
声をかけたかった。呼び止めたかった。でもできなかった。そんな気力は残されていなかったし、マキが自分と別れることを望むのなら、受け入れるべきだと思った。
……
……
仕事も、彼女も、未来も……
全部なくなってしまった。
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