第33話 お似合いですよ

 常々疑問だったことがある。


 創作の世界のキャラクターの投擲力だ。某パンのスーパーヒーローの顔を交換する女性が筆頭であり、キャラクターの投擲力は凄まじいの一言に尽きる。


 ガラスを投げつけたり、やかんを投げつけたり。


 大抵は相手に直撃する。激昂しているハズなのに、素人のハズなのに、あんな投げづらそうなフォルムなのに。なぜそこまでのコントロールがあるのかが疑問だった。

 

 しかしコントロールがなかったら困る。


「あら……」ラファルは智介ともすけに当たったティーカップを見て、「……やっぱり思った通りのところには飛ばないものですね」

「お、おう……」智介ともすけは頭を抑えて、「あんま……ティーカップは投げんほうがええよ……」

「なぜ?」

「片付けるの大変やし……」

「メイドにやらせればいいことでしょう? 私は大変ではありません」

「そ、そうか……」


 ……というかティーカップでも当たれば痛いもんだな……的確に額に当たったようで、少しクラクラする。


「トモスケさん」シエルが智介ともすけの顔を覗き込んで、「血が出ています」

「血……? ああ……」


 額を拭うと、赤い液体がついた。少し切り傷でもついたようだ。


「治療道具を持ってきます」


 シエルがそう言って部屋を出ようとしたとき、


「待ちなさいシエル」ラファルが言う。「そんな男のことは放っておきなさい。ランクが上の人間から対応すべきよ」

「ですがお姉様――」

「……なんで口答えするの? あなたは私に従えばいい……そうでしょう?」


 シエルはラファルと智介ともすけの顔を交互に見た。そんなときでも彼女は無表情だったが、それでも困っているのは伝わってきた。


 ……アレだな……機械が相反する命令を同時に受けたときみたいな……あるいはプログラムにない命令をされたときみたいな、そんな様子に見えた。


 ともあれ、


「これくらい平気やで」深い傷ではない。すぐに血は止まる。「かすり傷やから」


 一瞬無言の時間があってから、


「ありがとうございます」


 シエルは礼をして、ラファルの隣に座った。あれだけ言われても隣に座れる胆力……見習いたい。


 智介ともすけもソファに座る。なんとなく距離を開けるのも不自然かと思ったので、ガジーナの隣に座った。


 するとガジーナが、


「包帯を巻いてやろう」


 ポケットから包帯らしきものを取り出してそう言った。


「いや……ええよ。このくらい……」

「好意は受け取っておけ」そのままガジーナは強引に智介ともすけの頭に包帯を巻いた。「これでいいだろう」

「……ありがとう……」智介ともすけは自分の頭にある包帯を触って、「ハチマキみたいやな……」

「ハチマキだからな」


 本当にハチマキなのか……


「……なんでそんなもん持ち歩いてんの……?」

「S級なら当然だ」……そうなの……? 「似合っているぞ」

「おお……ありがとう……」


 なんだ優しいやつじゃないか。ちょっとガジーナのことを誤解していたかもしれない。最初に出会ったときは好きな人を前に緊張しすぎただけなのかもしれない。


「……フ……」ラファルがなぜか智介ともすけを見て鼻で笑って、「お似合いですよ……」


 クスクス笑いながらラファルはそう言う。


「そうか? ありがとう?」よくわからんが似合っているようだ。「笑顔になってくれたなら、何よりやな」


 笑われている理由はよくわからんが。そして肝心のシエルにはまったくウケていないのが問題だが。


 ともあれガジーナのおかげで額の傷も隠すことができた。


 ここから依頼の解決スタートだ。

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