第40話 なんでやねん

 そうしてドリュオプス家にたどり着いて、その巨大な建物を見てつぶやいた。


「なんで大阪城やねん……」見慣れた建物がそこにあった。ドリュオプス家は完全に大阪城だった。「しかも……本物よりデカいし……」


 本物の数倍はあるだろう。しかも夜中にライトアップされていてド派手だ。


 いや……遠目から大阪城みたいな建物があるなー、とは思っていた。だがまさかアレがドリュオプス家だとは思っていなかった。


「オーサカジョウ?」智介ともすけを連れてきた男は言う。「なんだそれは?」

「……ちょっと説明でけへんわ……ゴメン」うまく説明する自信がない。「これがドリュオプス家の屋敷か……?」

「そうだ。ナンデヤネン屋敷と呼ばれている」

「なんでやねん」素でツッコんでしまった。「どういう経緯でそうなったん……?」

「知らない。数代前の当主が作り上げただけだ。俺のような末端の兵士には、名付けの理由など推察する余地もない」


 それもそうか。そして……そこまで名前の由来なんて気にならない。どうせしょうもない理由なんだろうという確信がある。


 ……


 なんか嫌な予感がしてきた……せっかくシリアスな空気になってきたというのに、またわけのわからない狂った世界に逆戻りした気がする。


 リーダー格の男は門番に話を通し、巨大な門を開けた。


 ……

 

 しかし立派な建物だ。記憶の中にある大阪城をそのまま巨大にした感じ。もちろん細部は異なるのかもしれないが、威圧感は見慣れた立派な城と同等かそれ以上だ。


 ……なんか居心地悪いなぁ……いつも大阪城は外から眺めるだけだった。こんなことになるならお城の中も見学しておくんだった。


 ……というか大阪城って中に入れるのか? それすらも知らん。地元の城とはいえ、そこまで近い場所に住んでいるわけではなかった。


 場内に入ると……


「……なんやこれは……」


 いきなり怒声が聞こえてきた。

 

 とんでもない人数がその場所に存在した。巨大な大阪城の一階部分に、300人を超える人間が押しかけていた。


 その人々はなにかを取り囲むようにして熱狂していた。人気のお笑い芸人でもいるのだろうか。


「闘技場だよ」

「……」龍◯如くか、とツッコみかけてやめた。通じるわけもない。「闘技場?」

「ああ。レグルス様は……人の苦しむ顔を見るのが好きな男なんだ」別に人の性癖を否定するわけじゃないが……「だから人質やら、いろいろな条件を突きつけて戦わせるんだ。まず勝てないような状況に追い込んで、だがな」

「悪趣味だねぇ……」エ◯同人か、とツッコみかけてやめた。これまた通じないだろう。「で……それが今、戦ってるわけか」

「そういうことだ。たしか今の相手は……最強の女忍者らしい。人質は彼女の友人だ」

「勝てば友人ごと開放ってことか……」


 本当に悪趣味だ。人の苦しむ顔なんて智介ともすけは見たくない。笑っている顔を見るほうが、よほど楽しい。


 リーダー格の男が智介ともすけを連れて階段を上がろうとしていると、ひときわ大きな歓声が上がった。


「なんだ……?」智介ともすけが闘技場のほうを見ると、「――ギャ……!」


 いきなり智介ともすけの顔面にが飛んできた。ティーカップのように軽いものじゃない。もっと重量のある何かが、ものすごい勢いで智介ともすけの顔面に直撃した。


 智介ともすけはそのまま壁に叩きつけられた。手枷がついているので頭をかばうこともできず、大きなダメージを受けた。


 ……


 目の前に火花が散った。チカチカと視界が点滅した。気絶するところだったが、なんとかこらえる。


「なんや……? なにが飛んできた……?」

 

 智介ともすけの声に答えたのは、真面目そうな女性の声だった。


「……すまない……巻き込んでしまった……」その女性はふらつく足で立ち上がり、「早く逃げてくれ。残念ながら、キミを守る力は残されていない」


 目の前にいた女性は……忍装束を着ていた。なるほど、これが闘技場で戦わされているという女忍者なのだろう。くノ一、というやつなのだろう。


 どうやら彼女が投げ飛ばされてきて、智介ともすけに直撃したようだ。頭が痛いが……気にしている時間はない。


 ……


 智介ともすけは立ち上がって、その女性を見る。


 痛々しい姿だった。刀傷、打撃痕。血が流れ、肌は多くの箇所が赤黒く変色していた。本来は美しいであろう装束もズタズタに引き裂かれ、その激しい戦いを物語っていた。


 痛めているのは……とくに左膝だろうか。左足を引きずっているところを見ると、折れているのかもしれない。


 ……

 

 その女忍者が壁際まで吹き飛ばされてきて、観客もそちらに移動してくる。すぐに人の壁に取り囲まれて、なかなかの威圧感が智介ともすけに押しかかる。


 その観客たちの中から、とある男が出てきた。


 少年だった。8歳くらいの少年。美しい少年だった。手足が長くてスラッとしていて、モデルのような少年……


 ……


 ……


「どうしたのお姉さん? もう終わり?」そいつは聞き覚えのある声で言った。「最強の女忍者っていうから期待したのに……たいしたことないんだね」


 聞いたことのある声だ。見たことのある顔だ。


 しかし……がこんなところにいるわけがない。だが……他人の空似というのには、あまりにも似すぎている。


 智介ともすけは呆然とつぶやいた。


「……アルト……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る