第27話 ハズレスキル

 別にテンプレ展開に文句をつけるわけじゃない。テンプレと呼ばれるほどの導入は、そう呼ばれるに足る優秀な導入なのだ。優秀だからこそ使い回され、テンプレートだと言われてしまうのだ。


 智介ともすけが文句を言いたいのは、奇をてらって売り上げて、その後物語をたたむつもりもなく新刊が出なくなるタイプの物語である。


 読者は期待するのだ。その後の展開、結末を楽しみにしているのだ。その楽しみを奪うことは信頼を裏切る行為だ。


 完結しない物語は例外なく駄作。どれほど面白くても完結しなければ意味がない。


 どれだけ迷っても、どれだ迷走しても、どれだけつまらなくても、絶対に物語は完結させなければならない。


 打ち切りでもいいから完結させてくれ。音沙汰なしってのはやめてくれ。すごい悲しいから。


 ……


 まぁ趣味で書いてるのなら話は別だけれど。


 ……


 ともあれピエ山とガジーナの話は続いている。


 それを見てアルトが、


「……これ、見ないとダメ……?」

「見なくてええよ」これが小説なら、この1話は全部ムダだ。飛ばしていい。「噴水で遊ばせてもらい」

「うん。わかった」


 アルトは噴水を眺め始めた。パラエナもガジーナには興味がないのか、アルトの隣で噴水を眺めていた。


 ……ああ……美女と美少年が噴水を眺める。それだけで絵になるなぁ……絵画にして切り取りたい。


 ガジーナが不憫だったので、智介ともすけだけはガジーナの話を聞くことにした。聞かないのが優しさかとも思ったが、おいていくのも気が引けた。


 ガジーナは言う。


「仲間Bがどうした?」だから名前くらい考えろ。「あんな無能なやつが、なんの役に立っていたと言うんだ?」

「アイツは……補助系スキルでお前の実力を1億倍にしていたでゴザル!」

「な、なんだって?」

「さっきと同じやん……!」せめてパターンを変えろ。「そして気づけ……! 急に自分の実力が1億倍になったら気づくやろ……!」


 1億倍×1億倍になっているハズである。合計で何倍なのかはよくわからん。


「次に仲間Cの話でジュース」


 語尾が適当になってきた。


「仲間Cがどうした?」だから名前くらい考えろ。「あんな無能なやつが、なんの役に立っていたと言うんだ?」

「アイツは……補助系スキルでお前の実力を1億倍にしていたでゴザル!」

「な、なんだって?」

「他にないんか……!」コピペするな……! 「なんなんコレ……? この話、必要?」


 絶対にいらない。時間のムダだ。


「次は仲間Aの話でリンス」

「ループしてるループしてる」


 また仲間Aの話をしてる。


「仲間Aがどうした?」さっき聞いたやろ。「あんな無能なやつが、なんの役に立っていたと言うんだ?」


 怖くなってきたので展開を変えるために、智介ともすけが言う。


「補助系スキルで実力を1億倍にしてたんやろ?」

「アイツは……補助系スキルでお前の実力を1億倍にしていたでゴザル!」

「な、なんだって?」

「怖いって……誰か助けて……!」


 意味のわからないループに入ってしまった……どうやって抜け出せばいいんだ。どの選択肢を選べばいいんだ……


「次は仲間Aの話でスー」


 また仲間Aの話をしてる……


「仲間Aがどうした?」さっき聞いたやろ。「あんな無能なやつが、なんの役に立っていたと言うんだ?」

「やつのスキルのことは知っているでゴザルか?」


 お……なんか別の話になった。


「ああ……あのハズレスキルの話だな。たしか……【複製クローン】だ。どんなものでも複製できるという、なんの役にも立たないハズレスキルだろう?」

「どこにハズレ要素があんの?」大当たりやろ。「なんでも複製できるんやろ? どう考えても最強やん」


 シンプルに考えるだけで自分を増やせば戦力が増える。武器も防具も増やし放題だ。ハズレ要素が見当たらない。


 ピエ山は言う。


「やつのスキルは……できたんだッシュ……!」ステータス……? 「それによって……仲間Aはお前のステータスを1億倍にしていたでゴザル!」


 結局それか。いや、補助系スキルってなんだろうとは思っていたが、複製のスキルだったのか。


 それなら納得……? 納得か? 微妙に納得できん。ステータスの数値を複製するのはいいが、その複製した数値を足し合わせるのはどうするんだ? それもスキルに含まれているのか? じゃあ個人を複製すれば合体するのか?


 わからん……わかるようでわからん……頭がおかしくなりそうだ……


「な、なんだって?」


 なんでガジーナは毎回律儀に驚けるんだよ……


「それだけにはとどまらないデリシャス……」どんな語尾なんだよ……「おかしいとは思わなかったか? 仲間A、仲間B、仲間C……同じ顔、同じ声、同じ表情、同じ思考、同じスキルを持っているんだボンジュール?」

「何もおかしくないだろう?」

「どこがやねん」逆におかしくないところってどこ? 「いや……複製したんやろ?」


 仲間Aが本体かは知らんが、とにかく複製を繰り返して仲間を増やしていたのだろう。同じ人間が3人もいたら気づけ。しかもそいつは複製の能力を持ってるんだぞ。


 ピエ山は言った。


「その答えは自分の頭で考えると良いッキュ。答えにたどり着けたら大したものだ。この問題は難問だからな」

「どこがやねん」見りゃわかるやろ。「だから複製したんやろ?」

「さらばだガジーナ」

「……ワシってこの世界に存在してるよな……?」


 なんで無視されんの? なんで反応してくれへんの? 悲しくなってきた……


「まて! 教えてくれ……! 仲間Aはいったい……!」

「ふ……少しヒントをやろう。やつの能力は複製だ。このヒントを参考にすれば、あるいは答えにたどり着けるかもしれんな」

「複製……? つまり……」ようやく答えにたどり着いたか……? 「仲間Aは……なんでも複製できるということか?」


 ……

 

 ……


 ?


 ??


 え……? さっきガジーナは複製の能力のことを『どんなものでも複製できる能力』って言ってたよな?


 じゃあなんで……今になって気づいた感じなの? 同じ値段でステーキ作るの?


 ……


 ……


 ダメだ……


 頭が痛くなってきた……

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