第26話 はよ気づけ!

 兵士が門を開けてから、


「念の為、当主に確認をしてまいります。それまでこちらのお庭でお待ちください」


 そう言い残して兵士は屋敷の中に走っていった。


 ……


 なんで門を開けてから当主に報告に行くのだろう……もしも不審者だったらどうするんだ。門を開ける前に確認してくれ。


 ともあれパラエナが門をくぐって庭に足を踏み入れた。ガジーナはやはりパラエナ狙いらしく、近い距離感で歩いていった。


 智介ともすけはその後ろから、アルト少年と一緒に門をくぐった。


「立派な庭だね……」

「せやな……」噴水に彫刻。そして名前も知らない植物が完璧に整備されている。「立派すぎて落ち着かへんな……」

「……わかる……」


 縮こまる智介ともすけと少年。しかしパラエナとガジーナは慣れているのか、余裕の表情だった。


 アルトが聞く。


「あの人……知り合い? えーっと……マシンガンさん?」


 そういえばガジーナが便利屋に来たとき、アルトは眠っていたな。だから彼のことを知らないわけだ。


「そうそう」反応したのはガジーナだった。「銃を持ってダダダダダ――って誰が機関銃だ。2回目にしてトリッキーな間違いするな。俺はガジーナだよ」

「ああ……ゴメン」アルトは適当に謝ってから、「とりあえず、あなたの素性が気になるな」


 ……この少年……やたらと人の素性を気にするよな。元奴隷としては気になるのだろうか。


 ガジーナは割と面倒見がいいのか、しっかりとアルトの質問に答えていた。


「俺はS級パーティのリーダー、ガジーナだ。カリンバでもマシンガンでもない」

「ガジーナさん……聞いたことあるよ。歴史上でも最強のS級パーティ。そのリーダーだって」

「ほう……なかなか見どころのある少年だ」ガジーナは上機嫌になって、「いかにも俺がガジーナだ。最強の名をほしいままにした男だぜ」


 へぇ……結構有名な男だったらしい。


 そしてパラエナよ。便利屋という職業についておきながら、そんな有名な男を知らなかったのか? 大丈夫か? 優秀なのかアホなのか、わからない女だ。


 アルトが言う。


「ガジーナさんも、この屋敷のお嬢様を笑わせにきたの?」

「ああ。依頼を受けて、仕事として来た」

「じゃあ……他のパーティメンバーも、あとから来るの?」


 アルトが聞くと、ガジーナは目線をそらして、


「あんな無能な奴は追放してやった」……おや……? なんかWeb小説で何度も見たような展開に……「無能がいるとパーティが壊滅するからな。ついていけなくなる前に追放するんだ」


 ガジーナの言葉を受けて、いきなり知らない声が聞こえてきた。


「理解したでゴワス。真相が見えてきたでごザンスねぇ……」

「誰やねんお前」急にピエロみたいな見た目のやつが出てきた。「見るからに使い捨てのモブキャラやん……」


 口調も見た目も雑すぎる。このキャラ5秒で思いついただろ。


 ……コイツのことは覚える必要はなさそうだ……


 ガジーナはピエロを見て、


「お前は……ピエ山ピエ太郎」なんて名前だ。なんて雑な展開だ。なんでこの世界はこうなってしまうんだ。「パーティを追放された腹いせにでも来たのか?」


 なるほど……元パーティメンバーか。なんとも個性的なお仲間なことで。


「ガジーナ様……いやガジーナ」ピエロ……ピエ山は言う。「お前は気づいていないでガンス……」

「……なんの話だ?」

「最初に追放した仲間Aの話でゴワス」名前くらい考えろ作者。ピエ山みたいな感じでいいから。「あのS級パーティは、あいつがいたからS級だったのでゴザル」


 ……この展開、何度くらいWeb小説で見ただろう。というか最近は広告でも流れてくるようになった展開だ。


 そして語尾を統一しろピエ山。ゴザルだのゴワスだのガンスだの……もうツッコむ気力もないわ。


「なにを言ってやがる」ガジーナは反論する。「仲間Aだと? あの無能が何をしていたと言うんだ?」

「アイツは……補助系スキルでお前の実力を1億倍にしていたでゴザル!」

「な、なんだって?」


 そこで智介ともすけは、思わず大声で言った。


「はよ気づけ! なんで気づかへんねん! 1億倍やぞ! スライムでも魔王倒すわ!」


 智介ともすけがツッコんだ瞬間、目の前にメッセージウィンドウが現れた。


【トロフィー『例えツッコミを失敗した』を入手】

「別に失敗してないやろ……!」成功もしてないけど。手応えもなかったけど。「というかなんでウィンドウ出てくんねん……急に出てくんなお前」


 心の中でステータスオープンしたときはオーブンになったり巨大化したりしてたのに……なんで煽るときだけ普通に出てくるんだ。


 そんなことを思っていると、


【称号『短気』を獲得】

「誰が短気やねん」

【キミだよ】

「結構我慢したで? 耐えた末のツッコミやで?」

【ありきたりなツッコミで面白くはなかったけど】

「それはそうやけど……」

【そういえば昼食どうする?】

「なんでウィンドウと喋らなアカンねん」ツッコミが止まらん。「なんで会話できんの? この世界のウィンドウってAI搭載してんの?」

【搭載してるのは愛だよ】

「やかましいわ」


 ありきたりでつまらないボケをやめろ。AIと愛のボケは古今東西でありふれてるんだよ。


 智介ともすけがウィンドウと会話していると、ピエ山が怪訝そうな表情で、


「お前……さっきからなにを独り言を言ってるでゴザル……?」

「あ……すいません……」


 恥ずかしい……ずっとウィンドウと会話してた。しかも大声で。


 ……


 クソ……せっかくパラエナと出会ってシリアスな空気になってきたと思っていたのに、ガジーナのせいで全部台無しだ。


 また狂った世界に逆戻りしてしまった……!


「次は仲間Bのことでごザンス」

 

 ……まだ続くの……?

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