第25話 美少年は秘密が気になるものだよ

 3日後。


 その間の期間は、ひたすらネタの練習に使った。トリオのネタを書いたのは初めてだったので、いろいろと手こずってしまった。


 パラエナがネタの内容を読んでから、


「なるほど……智介ともすけくんがネズミ駆除の人なのね。駆除に来たお屋敷で、いろいろ理不尽なことが起こっていく。それがネタの概要」

「そういうこと」智介ともすけも自分のネタ帳を見ながら、「パラエナがお屋敷のメイド長さん。んで、アルトが執事さん」

「質問」アルトが手を上げて、「執事にしては若すぎない? ボクまだ10歳なんだけど」

「あくまでも設定上やから。まぁ大丈夫やろ」


 おっさんが女子高生の役をやることもある。


 智介ともすけは続けた。


「基本的に2人にボケてもらうことになる。それにワシがツッコんでいく。2人は細かい間とか、そんなのはまだ考えんでええよ。そこはワシがやるから」


 ツッコミの腕の見せ所だ。素人の2人はセリフを覚えるだけで精一杯だったので、智介ともすけがフォローしていくことになるだろう。


 ……本来ならもっと練習期間を用意したかった。だがお金がないので、早く依頼を達成しなければならないのだ。


 というわけで……依頼人のいる屋敷に到着した。



 ☆



「ここがエトワレ家よ」パラエナは巨大な屋敷を指して、「この町で唯一ドリュオプス家と対等に戦える名家。その家の次女シエル・エトワレ様を笑わせることがワタシたちの目的」

「お、おう……」智介ともすけは屋敷を見上げて、「……デカすぎへん……?」

 

 見上げるほど巨大な建物だった。白い外壁に高級そうな彫刻。しかも巨大な庭までついている。軽い気持ちでかくれんぼなんてしたら遭難しそうだ。


 もう萎縮していた。こんなに立派な家など見たことがない。


 アルトも屋敷を見上げて、


「レグルス様の屋敷でも思ったけど……こんなに大きい家で、なにをするんだろう……」

「大きいことに意味があるのよ」パラエナが言う。「要するに権力の象徴。財力と人脈……それらを見せつけるための、自己顕示欲の塊」

「そうなの?」

「一般的な豪邸なら利便性もあるけれどね。ここまで大きいと他に意味なんてないわ。暮らしても不便なだけだもの」

「暮らしてたことがあるみたいな言い方だね」


 ……やけに鋭いアルト少年だった。


 しかしパラエナも軽く肩をすくめた程度で、


「美女には秘密があるものよ」

「美少年は秘密が気になるものだよ」

「もっといい男になったら話してあげるわ」パラエナは苦笑いで、「……おとなしい子だと思ってたわ……」

「ありがとう」


 褒めてないと思うが。

 

 ……


 ともあれこの話題はこれで終了。必要になればパラエナから話してくれるだろう。


「じゃあ……行きましょうか。準備はいいかしら?」

「了解」「いいよ」


 智介ともすけとアルトが同時に答えたのを見て、パラエナは門に向かって歩き始めた。


 巨大な門の前には、兵士が2人ほど立っていた。


 その兵士たちはパラエナに警戒心を向けて、


「なんの用だ?」

「『便利屋パッちゃん』のパラエナです」一応、客には敬語を使うパラエナだった。「シエル・エトワレ様を笑わせる、とうい依頼を受けて参上しました」

「……ああ……お前も金に目がくらんだアホか」

「見る目のある人ですね。その通りですよ」パラエナの目的は金だ。「お互いにビジネス。それ以上は干渉しない。そちらのほうが楽でしょう?」


 兵士はつまらなさそうな表情で、


「……何だお前は……可愛げのない女だ」充分にかわいいけれど。「帰れ。時間のムダだ」


 帰れとは酷い扱いだ。一応こちらは依頼を受けた側だというのに。


 当然パラエナは食い下がる。


「一応、依頼は受けましたよ。こちらが証明書です」


 パラエナは証明書とやらを見せるが、


「時間のムダだ」兵士の態度は変わらない。「お前らのような名も売れていない奴らに、シエル様が笑顔をこぼすことなどあり得ない」

「やってみなければわからないでしょう?」

「無名のクセに偉そうだな……」無名なのは確かだけれど。「お前らとコチラでは格が違うんだ。お前らみたいなザコを相手にしてる時間はないんだよ」


 ……一理はあるかもしれないなぁ……


 彼だって仕事で忙しいのだろう。金に目がくらんだヘボの相手なんてしていられない。それは理解できる。


「困ったわねぇ……」パラエナは小声で、「門前払いは想定外だわ……」


 そりゃ呼び出されてきた形だからな。まさか追い返されるとは思わない。


 しかし金が無いので、さっさと依頼は完了させておきたいのだ。


 どうしたものかと思っていると、


「お前らは……」背後から声が聞こえた。どこかで聞いたことがある声だった。「……便利屋の奴らか……」

「……?」智介ともすけは振り返って、「ああ……アンタたしかS級パーティの……えーっと……カリンバ?」

「そうそう。板に金属を付けて指で弾いて演奏する――って誰が打楽器だ」

「おお……見事なノリツッコミ」


 急に高感度上がった。

 

 というかカリンバって打楽器なのか……? そこは知らんからツッコみきらん。


「ちなみにカリンバは商品名で、音楽的にはラメラフォンと言うらしいぞ」

「あ……そうなん?」


 それはこの世界の歴史なのか? それとも智介ともすけがいた世界の歴史なのか? メタ発言なのか? そもそも真実なのか?


 ……ダメだツッコミどころが多すぎる……こういうときに自分のツッコミ能力のなさを痛感するな……


 ともあれ……智介ともすけたちの前に現れたのはS級パーティのリーダーであるガジーナだった。


 そしてガジーナを見るなり、兵士の様子が変わった。


「ガジーナ様……! ようこそお越しくださいました! すぐに門を開けさせていただきます!」

「ああ」ガジーナは大物みたいなオーラを出して、「コイツらも入れてやれ」

「承知しました。ガジーナ様のお言葉ならば」


 というわけで智介ともすけたちも屋敷の中に入れるようになった。


 ……


 なんでガジーナが自分たちの手助けをしてくれるのだろう……そう疑問に思っていると、


「見たかパラエナ」ガジーナはパラエナにドヤ顔を向けて、「これが俺の力だ。惚れてもいいんだぞ?」


 ……まだコイツ、パラエナを口説こうとしてるのか……呆れた男である。そんな男のことは嫌いじゃない。


「ええ……ちょっとカッコよかったわ」パラエナも同じなのかもしれない。「ありがとう。助かったわ」

「気にすることはない。俺はS級の男だからな。器もデカいんだ」


 ……


 変な男だ……


 しかし助かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る