第23話 心まで
その日は泥のように眠った。
いろいろあった1日だった。異世界に来て死にかけて、謎の美女に命を救われて。
それから貴族の娘さんを笑わせる依頼を受けて……
……
まったく異世界ってのは波乱万丈だ。いろいろなことを悲しむ暇もない。
翌日に目が覚めると、
「おはよう、
「……」一瞬マキかと思ったが、そんなわけもない。「……パラエナ……」
「そんなにワタシと彼女さんが似てるかしら?」
「……そんなに似てないハズやねんけど……なんやろ。ダブって見える時がある」
性格も見た目も、そこまで似ていない。
なのにパラエナのことがマキに見えることがある。やはりまだ未練が大きいのだろうか? 同い年くらいの女性を見たら、マキに見えてしまうのだろうか?
「アナタの恋人さんに会ってみたかったわ」
「……ワシも会いたいわ……」
フラれたばかりだというのに。二度と会えないとなると、今すぐにでも会いたい。
「パンがあるけれど……食べる?」
「ありがとう」
しばらく
「おはよう……」寝ぼけた様子の少年が起床してきた。「……お兄さんとお姉さんって……どんな関係なの? 一緒に暮らしてるの?」
「成り行きで、ね」パラエナが言う。「関係性は……そうね。今はお笑いコンビ?」
「……へぇ……」興味があるのかないのか、少年は
「どういたしまして」パラエナが軽く言ってから、「重たいことを聞くけれど、アナタは……これからどうするの?」
……これから少年がどうするのか。
そうだ。それも考えなければならない。
今まで少年はドリュオプス家で奴隷のような扱いを受けていた。
だがその支配も終わった。奴隷とはいえ生かされていた状態から、自分の力で生きていかなければならなくなった。
「どうしようかなぁ……」少年は天井を見上げて、「生きる意味は全部なくなったつもりだったんだけど……」
「……」
「とりあえず……またラーメン食べたい」それは立派な生きる意味だ。「そのためにはお金が必要なんだよね」
「そうね。いつまでも無銭飲食はできないわ」
「……じゃあ……とりあえずこのお店を手伝わせてもらおうかな」
「ワタシのお店を?」
「うん。便利屋なんでしょ?」なんとなく話は聞いていたようだ。「力仕事なら自信がある。見た目もいいみたいだし、役に立てると思う」
だろうな。男を一人背中に乗せて歩き回る体力と力。そして彼ほどの美少年なら、確実に役に立つ瞬間がある。本来ならそれだけで雇っても損はないくらいだ。
パラエナは少し考えてから、
「……2人分のお給料を支払う余裕はないのよねぇ……でも、キミを取り逃すのは未来の損害が大きそうだわ」
「そうだね。ボクほどの大魚を取り逃すのはもったいないよね」
「自信家ねぇ……」
「嫌いじゃないでしょ?」
「そうだけれど」
「プライドまで渡した覚えはないよ」そこには確かに、少年の強い意志が見えた。「あんな人達に心まで支配されてたまるか」
……一瞬、パラエナの返答に間があった。賢い彼女にしては珍しいことだった。
しかしすぐにいつもの調子に戻って、
「そうね。その調子。給与を渡す以上……活躍してもらうわ。少年」
「了解」少年は頷いてから、「それからボクの名前はアルトだよ。よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
というわけで……
便利屋パッちゃんのメンバーが3人になった。
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