第20話 そうよ
そのまま少年を連れて外に出た。
夜の街は静かだった。星がキレイだった。
しばらくパラエナについて歩くと、小さな飲食店が見えてきた。今にも潰れそうなボロ家だが、なんだか隠れ名店的な雰囲気を醸し出している場所だった。
パラエナはその店の扉を開けて、
「お邪魔するわ」
カウンターの中にいた店主らしき人が言う。
「邪魔するなら帰ってくれ」
「了解」パラエナは一度扉を締めて店の外に出てから、また入店する。「……これは毎回やらないといけないの……?」
「当たり前だろうが」店主らしき人は仏頂面のまま、「ようパッちゃん。恋人連れか?」
「そうよ」
「そうやっけ?」思わず
フラれたばっかりだった。なんでこんな悲しいことを何度も思い出さなければならないのだろう。
とにかくこの店主とパラエナは知り合いのようだ。しかもかなり仲が良さそうである。
店主は頭にタオルを巻いている、いかにも頑固親父って感じの風貌だった。
店内には良い匂いが充満していた。空腹なこともあって、またお腹が鳴ってしまいそうだった。
パラエナはカウンター席に腰掛けて、
「相変わらずお客さんがいないわねぇ……そんなので経営は大丈夫?」
「そっくりそのまま言葉を返す」その通りだった。「お互いに上手くいかねぇもんだなぁ……」
「そうねぇ……」お互いに店を構える者同士、通じ合う部分があるようだ。「とりあえず……ラーメンを3つ」
「了解。ちょっと待ってな」
それから店主は厨房でラーメンを作り始めた。かなり手慣れている様子で、味も期待できそうだ。
ああ……お腹が減ってきた。こうしてカウンター席に並んでいるだけでヨダレが垂れてきそうだ。やはり空腹というものは最大の調味料だ。
しばらく待つと、ラーメンが3つ完成した。
店主はラーメンをパラエナ、少年、
そして店主は
素のテンションでツッコんだ。
「あなたが食うんかい」
「おお、スマン。これ食べ終わったら用意する」
「ああ……はい」
思わず頷いてしまった。しかし店の店主だってお腹は減るだろう。食べたいのなら食べてもいいと思う。別に客を最優先しろ、とは言わない。
……
まぁ営業時間中は客を優先してほしいものだけれど。食事がしたいのならお店を休憩時間とかにしてほしいけれど。
ともあれ
「お一人でやってるんですか?」
「おう。いろいろこだわりがあるからな。他の人間には触ってほしくねぇ」店主は自分のラーメンを食べきって、「ああ……相変わらず美味いな……」
「はぁ……そうですか。しかし食べるの早いですね」
「バカ野郎。お客さんを待たせるわけにはイカンだろうが」
「……じゃあ食べんかったら良かったやん……そのラーメンをワシにくれるだけで良かったのに……」
それから自分のを作ればよかった。それだけで解決する問題だった。
さて店主がラーメンを食べ終わって、
「……なんだ少年……泣くほど美味いか?」
ふと隣を見ると、少年がたどたどしい手つきでラーメンを食べていた。
目元には涙が浮かんでいた。嗚咽をこらえながら、少しずつラーメンを口に運んでいた。
「美味しい……」少年は泣き笑いの表情で、「こんな美味しいの、はじめて」
きっと今までの疲労やらしがらみやら、それらから開放されたからだろう。開放されてからはじめての食事だったからだろう。
涙の理由には……悲しみも含まれているかもしれない。だがそれを指摘するのは野暮だと思った。
……
苦しくて悲しいときほど温かいものを食べる。それはきっと、とても重要なことなのだ。こうやって涙を流して、なんとか現実を受け止めていくのだ。
「そうか」店主ははじめて笑顔を見せて、「そんなに美味いか。よし。特別に替え玉を作ってやろう。無料サービスだぞ」
「ホント? いいの? ありがとう」
「おう。ちょっと待ってろ」
それから店主は少年の替え玉を準備し始めた。
……
微笑ましい光景だ。やはり店主としても自分の料理を泣くほど楽しんでくれたら嬉しいのだろう。
……
それでも1つだけ言わせてくれ。
「ワシのは……?」
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