第21話 ワタシにも意地悪してくれていいのよ?
それから少年がラーメンの替え玉をもらって、
「おう。またせたな」
「ホンマに待ったよ」
かなり長時間待たされた。もう食べたくて仕方がない。
店主はラーメンを
「しかし……なにも文句は言わなかったな。なんでだ?」
「……まぁ店主には客を選ぶ権利があると思うから……」店主だって接客したくない相手くらいいるだろう。「お客様は神様って考えは苦手や。客が偉そうにする権利はないやろ」
同じ理由で店員も偉くはない。だがその経験や人生に敬意を払うというだけの話。
「……なるほど……パッちゃんの恋人らしい考えだな」
「恋人ではないけどな」あまりにも不釣り合いだ。「……恋人らしいってのは?」
「生きづらそうって話だ」
「……?」
いまいち意味がわからん。
「そいつは俺の奢りだ。意地悪しちまったからな」
「意地悪のうちにも入らへんけどな」
「おう。楽しみにしてる」店主は少年に向き直って、「少年。お前さんのも無料にしてやる。今回だけだからな」
この人……ツンデレか? 厳つい見た目のツンデレか? そういうキャラなのか?
話を聞いていたパラエナが、
「ありがとうね。助かったわ」
「お前は自腹だぞ?」
「……ワタシにも意地悪してくれていいのよ?」
「はいはい……」なんだか仲良しみたいだな。「風の便りに聞いたが……お前さん、エトワレ家の依頼を受けたんだって? シエル様を笑わせろって」
エトワレ家のシエル様……
状況を考えると、どうやらそれが
「情報が早いわねぇ……」パラエナはラーメンのスープを飲み終わってから、「ごちそうさま。美味しかったわ」
「おう。で、なんでそんな依頼受けたんだ? 不可能な依頼受けるなんて、お前らしくもない」
不可能……? そこまで言われる理由があるのだろうか。
「不可能だとは思ってないわ。それに謝礼金も大きかったし、チャレンジしてみる価値はあると思ったの。それにエトワレ家からしたら、ワタシにはあまり期待してないでしょうから」
「どういうことだ?」
「他にも依頼は出してるみたい。娘を笑わせてほしいって依頼を受けてる人間は多いのよ。ワタシはそのうち1人ってだけ」
片っ端から頼りになりそうなところを当たっていたわけだ。
だからこそ……
パラエナは言った。
「だからこそチャンス」その表情は真剣そのものだった。「売れない便利屋にとっては大きなチャンスなの。こんな状況でもないと、ワタシみたいな小さな便利屋に貴族が依頼を出すことなんてないもの」
「……」
「それに……貴族に恩を売れば役に立つわ。そうなれば――」パラエナは言葉を止めてから、「とにかく成功したら謝礼は莫大なの。こんなチャンスを逃す手はないわ」
……
なんだか訳アリらしいな。気になるが……深く突っ込んで聞くつもりはない。
人間はそれぞれ事情を抱えている。人に喋りたくないことだってある。無理に聞き出したりしない。
……
とにかく今はシエル様とやらを笑わせることに集中しよう。
……異世界にも自分のネタは通用するだろうか? せっかくだから新ネタを考えて行こうか。そうと決まれば映像を作って――
……
映像? あれ? この世界って映像とか用意できるのか?
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