第14話 得意な依頼

「ワタシは逃げるけれど……立てる?」

「あ、ああ……」智介ともすけは彼女の手を借りて立ち上がる。「ありがとう。助かった」

「礼には及ばないわ。ワタシにもメリットがある行為なのだから」


 ……メリット……? 彼女になんのメリットがあるというのだろうか。


 気になるが、聞いている時間はない。


「おい……!」大物貴族様が叫ぶ。「早く捕らえろ!」


 その声を受けて、呆然としていた兵士たちが動き始める。

 

 しかしその動きは緩慢なものだった。突然現れたウィンドウの壁が不気味すぎて、恐怖を覚えているようだった。


 これはチャンスだ。逃げるチャンスである。


 智介ともすけは少年を抱えあげて、


「逃げるぞ」

「……まだ殴ってないんだけど……」

「次の機会のお楽しみや」

「……わかったよ……」


 というわけで智介ともすけは全力で北に向けて走り始めた。


 当然兵士たちは追いかけてくるが、


「迷いを持ったまま戦うと死ぬわよ?」謎の女性が迎撃してくれた。「今日のところは大人しく……取り逃がしたってことにしておいたら?」

「……」兵士の一人が言う。「……取り逃がしたなんて報告したら……どんな罰を受けるか……」

「相変わらず独裁者気取りなのねぇ……」知り合いなのだろうか。「……ファレーナ」

「……?」

「ファレーナと伝えなさい。そうすれば大丈夫よ」

 

 ファレーナ。彼女の名前だろうか。それとも暗号?


 ともあれ兵士たちは智介ともすけを追うのを諦めたようだった。きっと彼らとしても智介ともすけを捕まえるのは本意ではなかったのだろう。


 兵士たちと距離を取って、智介ともすけはスピードを緩める。振り返って確認するが、兵士たちが追ってくる気配はなかった。


 智介ともすけは軽く息を整えて、


「重ね重ね、礼を言うよ」

「お礼はいらないわ。さっきも言ったけど……ワタシにもメリットがある行為だから」

「……メリットってのは?」

「それはまたの機会に」


 訳アリみたいだな


「ワシは井内いうち智介ともすけだ。アンタは?」

「ワタシ? ワタシはパラエナ」

「……パラエナさん……」偽名だろうか? 「おかしいな。なぜかファレーナだと思ってた」

「あら……その名前をどこで聞いたの?」

「夢の中で聞いたみたいだ」聞かれたくないことなのだろう。「ともあれ……ありがとな。パラエナさん」

「さん、なんていらないわ。パラエナって呼んで」


 初対面でそこまで距離を詰めるのは抵抗があるが……まぁ本人が望んでいるのならいいだろう。


 智介ともすけと彼女――パラエナは並んで歩きながら、


「パラエナ。アンタ……何者や?」

「街で便利屋を営んでる女よ。今はそれだけの女」

「便利屋?」

「そう。なんでも屋と呼んでもいいわよ。オモテの依頼からウラの依頼まで……お仕事があれば、いつでもどうぞ」


 ……なんでも屋か……どうりで強いハズだ。身のこなしがタダモノではない。修羅場をくぐっている匂いがした。


「んで……その便利屋さんがワシを助けて、なんのメリットがあんの?」

「どうしても気になる?」

「せやな」


 気になるから何度でも聞いてしまう。


「そうねぇ……職業も明かしたし、そろそろ教えるわ」パラエナは智介ともすけに向き直って、「ワタシは今……とある依頼を受けてるの。アナタにはそれを手伝ってほしい」

「……手伝う? ワシが?」


 初対面だが?


「そうよ。依頼の内容はこと」パラエナは挑戦的な笑みを浮かべて、「お笑い芸人なのでしょう? アナタの得意な依頼じゃないかしら」

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