06.
俺は顔を上げる。すると、
「出た! ホモ!!」
「ホモ、ナンパしてんの?」
「ホモ・リューノスケ!!」
自転車にまたがった何人かの子供たちが、俺に――瀬尾くんに向かって、やいのやいのと声を上げている。
みんな瀬尾くんと同じくらいの年頃で、肌は健康的に焼けていた。
「な、なんでここにいんだよ!」
カッと言い返した言葉で、俺は初めて瀬尾くんのタメ口を聞いた。
「お前こそなんでここいんだよ!!」
「そいつダレ? 中学生?」
「うっさいな! 別にいーだろ!!」
瀬尾くんは顔を真っ赤にして言い返すが、劣勢のようだ。そんな彼を見て子供たちはゲラゲラ声を上げて笑っている。話に付いていけない俺は、とりあえずしれっと中学生だと勘違いされていたのがショックだった。
「ホーモ、ホーモ!」
子供たちの大合唱が始まったところで――あ、これはヤバいな――と、ようやく、俺の警報機が動作したのだった。
「い、いや! そうじゃないから!!」
俺の口からとっさに出てきたのは、そんな否定の言葉だった。
「ハア??」と、子供たちは一様に、首を傾げて低い声を出す。
「そういうんじゃなから! な、なあ!? リューノスケ!!」
「…………?」
瀬尾少年は今にも泣きそうな顔で(なんだったらひとしきり泣いた後みたいな顔で)、俺の方を見上げている。
それを見て、俺の軟弱だった決意が、固まった。
「遊びに行くんだよな!? あんなやつら、かまうなって! ほら行くぞ!!」
瀬尾くんの腕をさっと掴む。子供たちがいるのとは反対方向に、力を入れて引っ張る。親戚のお兄さん、俺は親戚のお兄さん、と、したこともない役作りをしながら。
少しばかり躊躇した後、瀬尾くんは歩き出した。表情が少し柔らかくなった――
子供たちは呆気にとられて、何も言わない。単純に高校生が怖かったのかもしれない。
それでも、自転車で追いつかれたら困るなぁと思って、俺は瀬尾くんを引っ張って、早歩きで公園を出て行った。
公園から少し離れた、大通りで。
結局、学区は出てしまった。ここまで来れば、あの子たちは来ないだろうと思ったのだ。
「…………」
「…………」
ここに来るまでの間、俺たちは無言だった。
話すべきことも、話せばいいことも、話したいこともわからなかった。
大通り沿いにある、チェーンのデパートの前に来てようやく、ああ、ここまで来ちゃったんだなと、足を止めて、手を離したのだ。
「……えと……ここまで来ちゃったんだし、ポテトでも食ってくか? おごるぜ?」
「…………」
……やっちゃったかな。
あれが正しい対応だったのか、わからない。
いじめはチクると悪化するって話、あるよな。歩きながら思ったけど、俺がしたことって、結構まずかったのかもしれない。
「……ごめんな、勝手なこと言って」
つい、思ったことをそのまま口に出すと、瀬尾くんは顔を上げた。
「…………」
「えっと……よくなかったよな。瀬尾くんの事情に、首突っ込んで」
瀬尾くんが無言で見上げてくるのが、より詳細な事情を求められているのかと、俺は続けて理由を説明する。
しかし瀬尾くんは何も言わずに、うるうるした目で見上げてくるばかりなので、何か冗談の一つでも言うべきなのかと悩み始めたところで――
「……僕やっぱり変ですか?」
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