02.


 説明しよう。俺は先週末、瀬尾せお家に遊びに行き、柳之介りゅうのすけ+母×2と遊んだ。今日は木曜日で、柳之介と遊ぶ約束は週末にしている。その日に俺は「ごめんね付き合えないんだ」と柳之介にちゃんと告げる予定で、縁が切れるならそれも致し方なしだと思ってる。

 つまり、まだ、ちゃんと断ってない。


「……で、保留ってことか」

「い、一週間待ってくれって言っただけだよ」


 雄太ゆうたは事実を述べただけだが、俺のプライドが変な言い訳をする。一夜明けての、昼休み。こいつが同じクラスにいる以上、昼飯をともにするのは、バナナの皮があれば滑って転ぶのと同じくらいお約束だから、つまり今日も一緒に飯を食っていた。

 島田しまだがいる教室で食うのは気まずいので、ひと気のない非常階段でメシである。


賢治けんじ、どーせOKすんだろ?」

「え、どうしてわかるんだ」

「顔がニヤついてるぜ~」

「ウッ」

 俺は慌てて顔を手で覆って、揉む。なるほど、確かに口角がおかしなことになってるな。


「けど柳之介のことがあるから保留ねぇ。ふーん」

「なんか、だって、悪いだろ。あっちの返事なあなあにしてるのに、先にこっちにOK出すって、こう、順番が違うというか」

「ンー、賢治って面倒くさがりのくせに、そういうとこ真面目だよな」


 雄太は至って冷静だ。俺が浮かれてるから、相対的にそう見えるだけかもしれないが。

 ……いや、冷静というか。


「……雄太。お前、不機嫌か?」

「えー?」


 俺が尋ねると、雄太はあからさまに不機嫌な顔で振り返った。

 そして、わざとらしく唇をとがらせて、


「そりゃあ寂しいですよ。だってさぁあああ、賢治に彼女ができたら、絶対俺のことかまってくれねーじゃん! わかるこの気持ち?」

「えええ? んんん……いや、わり、わかんねーかなぁ」

「あーあ、惚れた方は辛いよねぇ」


 雄太は最近、平気でこういうことを口にする。最初は抵抗があったが、なんか慣れてきたし、というか止めてもやめないしで、今はほったらかしだ。女子も、女子同士で遊びに行くときに『デート』などと銘打つことがあるから、あれと同種だと思っている。


「けどそっかぁ、島田かぁ」

「めちゃくちゃビビったよ。なんか、全然、そういう感じだって知らなかったから」

「そんな目立つ方じゃないもんな。かといって、地味~なタイプでもないし」

「吹奏楽部だっけ。野間のまとか大貫おおぬきと仲良いよな。よく一緒にいる」

「そっかぁ、賢治付き合うのかぁ、そっかぁ。へえ、ふーん。ほーん? あそぉ、ついにねぇ……。……ちょっとマジで悲しくなってきたわ」

「う。な、なんか悪かったよ」


 そこまで言われると、まあ、なんだ。気持ちはわからんでもない。俺だって、もしも雄太に彼女ができて、結婚します旦那になりますこの家庭を俺が支えていきますとなったら、親ほどではなくとも、兄弟程度には感慨深くなるはずだ。……こいつが結婚かぁ……。


「うっ……」

「んん!? 賢治どうした!?」

「い、いや、なんでもない」


 いかん、これはなかなか威力があるぞ。俺も思ったより、こいつに依存してたかもしれない。それを振り払う意味も込めて、雄太に告げる。


「お前はいい旦那になれるよ」

「賢治の?」

「ごめんなさい」

「フラれた! 秒でフラれた!!」


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