03.


 教室に戻ってから、なんとなく気まずくて、島田しまだの顔は見られなかった。いや、気まずいっていうのは言い訳だな。単純に恥ずかしかったのだ。

 一方で、雄太ゆうたはチラチラと彼女の方を見ているようだった。自分が告白されたわけではないから、気が楽なのだろう。まぁ俺と雄太がベッタリしているのは周知されたことだから、島田からすれば、俺がこいつに何もかもバラしたんだということは、わかってしまうのだろうが。


 告白、されたのか。


 あとは俺がOKさえすれば、理論上カップル成立となる。

 あと一言、俺が「はい」の二文字を言えば。


「…………」


 なんかそう思うとぞわぞわした。緊張と、少しの寒気。今、俺の目の前に、不安定なバランスで積み上がった彼女の想い。俺はそれを倒すことも壊すことも、受け止めることもできて、逆に言えばどれかの選択肢をとらないと、この不安定さは永遠に続くのだ。

 そして同じものが、柳之介りゅうのすけとの間にも積み上がっている。


 俺は、それを、ずっと放置してきたのだ。

 不安定なものを、不安定なまま。




 あの、告白された日。

 なんで告白してくれたの、と島田に聞いたら。

 前にバイト先で佐原君を見かけて、と、彼女は答えた。


「レジに佐原さはら君来て……覚えてないでしょ?」

「え、わり。まじか。いつの話?」

「しょうがないよ、一年の最初の頃だったから。私って気付いてなかったと思う」


 悪いが本当に覚えていなかった。人の顔を覚えるのも、得意な方じゃないし。


「それで、レジで佐原君、ちゃんと『ありがとうございます』って言ってくれて……すごく、礼儀正しい人なんだなって。それから佐原君のことよく見るようになって……学校にいるときも礼儀正しくて真面目だから。いいなぁって」

「そ、そうか」


 照れながら言う彼女が、嘘を言っているようには到底見えなくて。ただただ純粋な褒め言葉に、俺はくすぐったいような、恥ずかしさで逃げ出したくなるような、だった。

 そしてその理由は、柳之介に言われたそれと、どこか似通っていて。


「そっか……」


 これは、リバイバルだ。

 柳之介に言われたことの再現。そして、相手が同年代の女子だからという理由で、こんなにも簡単に、彼女の方へと転がっていく自分がいるのだ。


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