第4話
01.
「付き合ってください!!」
…………ほう?
目の前で起きている事態を、俺は全く把握できなかった。
頭を深く下げる女子生徒。
放課後、ひと気のない廊下で。
「……えーと」
小学生の頃に一度告白された経験あり、中学校の時に周囲の悪ノリに背中を押されて告白するも玉砕。一番青春華やぐと思われた高校生活では、まさかの恋愛話ゼロ。
……で、終わるかと、思っていたのだが。
「あの……俺で合ってる? 相手、間違ってない?」
「ま、間違ってなんかないよ!」
女子生徒は、とんでもない、と言わんばかりに、ぱっと顔を上げる。
「実は佐原君のこと、一年の時から気になってて……それで、そのっ、本格的に受験期に入る前に、気持ちを伝えておきたくって……って、思って」
そう髪を耳にかけながら言い訳をする様子は、照れているようでも、怒っているようでもあって。彼女の白くて小さな耳が、長い黒髪の中から露わになる。
ひぇっ、と、うぶな感性が悲鳴を上げた。
やばい、嬉しい。
嬉しい、けど。
「そ、そっか。ありがとう」
心臓がバクバクいっていた。スカートから伸びる足や、首筋や、彫刻みたいに細くて綺麗な彼女の指の、一本一本に目が行く。いやいや、失礼な、と目を逸らしながら、彼女の姿をフレームアウトさせても、正面に感じる女性の存在に、体全部が心臓になってしまったみたいに、全身がドキドキと脈をうっていた。
黒のセミロングに、周りから浮かない程度に崩した制服。一年の時は同じクラスだったが、二年で分かれ、三年でまた一緒になった。でも特にそれ以上の接点は無く、まともに話したことは一度も無い。好みか好みじゃないかで言えば、割とガチ寄りの好みなのだが、いかんせん喋る機会が無かったので、それ以上の関係を想像したこともなかった。俺もそうだが、彼女もそんなに目立つ方じゃないし。
「ありがとう、ってことは……?」
島田は首を傾げた。
イエス、ノウ、イエス、ノウ。メトロノームの針が、二つの選択肢を行き来する。俺はまだどっちか答えていない。ややや、好みか好みじゃないかであれば好みなわけだから、イエスかノウかで言えば、つまり――
「…………」
それは、つまり。
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