11.


「私が異性を受け付けないみたいに、他の人が同性を受け付けない気持ちはよくわかるの。だから『女だから』って理由で拒否されることや、それを言い訳にすることもあると思う」

「…………」

「もちろん、マイノリティーを大切にしてほしいとは思うわよ。今は私たちにとって生きづらい世の中だし、正直に言うと、もっと楽になりたいと思ってる。――でもね、それと同じくらい、マジョリティーも大切にされるべきだわ。理解されないつらさも、理解できない寂しさも、私たちはよく知ってるつもりだから」

「…………」


 ……俺は。

 俺は、羽菜はなさんという人を、甘く見ていたのかもしれない。


 違う。LだのGだのと、無機質なアルファベットで分類される人たち全部を、甘く見てたのだ。だから柳之介りゅうのすけのことも“差別してはいけない”と思ったし、鏡子きょうこさんが出てきたときも、“驚いてはいけない”と思っていた。

 けど、それは、心のどこかで、彼らを“保護すべき対象”として見ていたからだ。

 彼らを対等としてではなく、自分より弱いものとして扱っていたからだ。


 エントランスをくぐり、オートロックのガラス扉を出る。

「それじゃあ……」と言いかけた羽菜さんに、俺はドキドキと鳴る胸を押さえつけて、「あの」と、口を開いた。

 きちんとここで断罪せねば、今日の夜は眠れないと思ったのだ。


「俺、柳之介くんに告白されたとき、どうすればいいか、わからなくて。男子だから、小学生だからって理由で断るのは、差別になるのかなって、勝手に思ってて」

「……うん」

「それで、断るのもできずに、ぐだぐだここまで来ちゃったんですけど……ちゃんと、今度、言います。自分の口から、柳之介くんに」

「……うん、ありがとう」


 羽菜さんは微笑んで、そう言う。


賢治けんじくんの好きな人を、好きになればいいのよ。好きじゃない人を、無理して好きになる必要はないの。でも――」


 言葉を一度詰まらせて。詰まらせてから……彼女は、


「でも、友達として好きになってもらえたなら、あの子とまた遊んであげて。君が来てくれて、嬉しかった。私も、鏡子ちゃんも」






 ろくに恋をしたことがない。

 恋愛したことがない。彼女が欲しいと口では言いながら、本気で誰かと向き合う気なんてなくて、ただただ、自分の都合の良い人間を欲しがっていただけだ。恋人だけじゃない。友人とも、きっと本気で向き合えてなかったのだと思う。

 だからいつも、どこへ行ってもなあなあだった。


 やっとわかった気がする。自分が何から逃げていたのか。それによって、何を失い、誰を傷つけるのか。そしてどうすれば、それと真正面から向き合えるのか。


 俺はやっぱり恋をしてないんだけど、

 今日初めて、ちゃんと恋愛ができた気がした。

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