10.


「悪いね~、一緒に遊んじゃって。本当は、柳之介りゅうのすけと遊ぶはずだったのに」

「い、いえいえ。楽しかったし、全然問題ないです」

「うぅ……俺、賢治けんじさんと二人がよかった」


 玄関で。

 鏡子きょうこさんの横で柳之介が不満げに呟く。母二人が思いのほか気さくだったので、普通に遊んでしまったが、柳之介少年が寂しそうなのを見ると、あー悪かったかなと思う。「また今度な」という言葉が自然に出てくる。


「うん! 賢治さん、また遊ぼう!」

「あー、無理しなくていいよ賢治くん。受験あるでしょ?」

「え、ええ~!?」


 なお不満げな柳之介に、「はは」と俺は苦笑いだ。来週遊ぶくらいなら苦ではないものの、どこかのタイミングで考えなければならないことだとは思う。

 それを機に、柳之介とは遊ばなくなって、縁が切れるかもしれない。

「…………」

 今更馬鹿らしいのだが、それはもったいないな、と思う自分がいた。

 この奇妙な家族と、縁が切れてしまうのは。

 すると、それを察したのか、


「まぁ、いつでも遊びに来てくれればいいよ。受験勉強の休憩くらいにさ」


 鏡子さんはさっぱりとそう言う。

 すると、奥にいた羽菜はなさんがひょこっと出てきた。


「私、下まで送るわ」

「えっ!! 俺も行く!!」

「だーめ。あんたはゲームの片付けがあるでしょ」

「はは……すみません、ゲームほったらかしで」


 俺が頭を下げると、羽菜さんは「いいのよ」と笑った。




 羽菜さんとエレベーターで、一階へ下っている間。


「賢治くん、ありがとうね。あの子に構ってくれて」

「え? ああ、いえ……」

「驚かせちゃったのは、本当にごめんなさい。あの子、自分の家庭環境にあんまり疑問を持たずに育ったから、他の人もそうだと思ってる節があって。……それに私たちが“こう”だから、あの子も自由になり過ぎちゃったのね。けっこう、性別構わず一目惚れするタイプなのよ」


 それを聞いて、ああ、やっぱり告白されたことは知ってるんだなと思った。「最初はびっくりしましたけど」と言ったところで、セリフが止まる。……止まったけれど、言った。

 こういう生活をしていた彼女に、やんわりと、でも、問いたかったのだ。

 俺の心の汚い部分の、その中で一番、素直な疑問を。


「ほら……最近、LGBTってよく言うじゃないですか。だから、俺の下の世代の子なんかは、もう当たり前なのかなって。だから性別が理由でどうこう言うのって……もう、ダサい感じなのかなって思ったんですよ」


 遠回りだが、伝わっただろうか。

 俺が告げると、羽菜さんは、


「そんなことないわ。性別が理由で受け入れられないことなんて、いくらでもあるもの」

「…………」

「鏡子ちゃんはどっちでもいけちゃう派なんだけどね。実は私は、男性がだめで。ちっちゃいときから同性としか恋愛できなかったのよ」

「そう、なんすか」


 そう言われると、なんか、男として、人並みにショックな自分がいた。羽菜さんは綺麗な人だから、なおさら。


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