02.


「え?」


 島田しまだの表情は真剣だった。ぐずぐずの俺に怒っているようでもあった。わずかに困惑を残しながらも、キリッと目を引き締めて、鋭く俺を問い詰めた。


「行かなきゃだめでしょ! あの子泣いてたよ? 何があってこんなことになってるのか知らないけど、さっきの言い方は普通に良くない! ちゃんと謝りに行く!」

「え、ええ?」

「ええ、じゃない! このあたりよく不審者出るんだよ!? そんなところで小学生一人にしてどうするの! ねえ、多分もう橋のところまで行っちゃった! 追いかけなきゃ!!」


 いろいろ言っているうちに島田の怒りも高まってきたようで、後半は普通に怒られていた。いや島田、お前が来たせいでこんなことになってんだろ! と一瞬脳裏をよぎったが、それを百個並べたって、島田の正論には到底かなわない。

 そして島田の正しさに鼓舞されて、怠惰に潰されかけていた俺の正義も、ようやく目を覚ましたのだ。


「あ、ああ」

「ほら行く! 早く行く! 謝る! 私も謝るから!」

「わ、わかった!」


 島田は自転車を押してタッタと走り出し、俺もその横を伴走する。

 一緒に謝ってくれるのか、と思いながら。






「ど、どこだ……」

 川をだいぶ上流まで来たのだが、まだ柳之介りゅうのすけには追いつかなかった。だいぶ先に行ってしまったのか、横道に逸れてしまったのか。俺だって仮にも運動部なので、特別足が遅いことも無いと思うが、柳之介も立派な野球少年だ。感情にまかせて遠くまで走って行ってしまったのかもしれない。


佐原さはら君、あの子に電話できないの?」

「柳之介、スマホ持ってないんだ」

「うーん、そっか……」


 川自体は大して歪みも無い、ゆるやかなカーブを描く川なのだが、橋があったり公園があったり、並木が生い茂っていたりと、歩道の見通しはそれほどよくない。だが少なく見積もって一〇〇メートル先くらいまでは、柳之介の姿は見えなかった。


「私、自転車で、向こうの橋まで行ってみるよ。佐原君は横道見ながら探してみてくれる?あっちの方は畑でひらけてるし、いたらすぐに見えるはずだから……」

「あ、ああ。わかった」

「クラスのチャットに佐原君いるよね? 見つけたらそこに連絡するよ」

「お、おう。頼んだ」


 島田はテキパキと指示を出すと、「それじゃ!」と自転車にまたがって、ヒュウっと歩道を走り出す。競輪のような前傾姿勢。学校じゃもっと大人しい印象だったが、今の彼女は頼もしく見えた。



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