03.


 俺も川沿いを走るが、柳之介りゅうのすけは見つからない。畑、公園、横道など、とにかく視線を配るが見当たらない。歩道と川の間にある、立ち入り禁止の土手で釣りをするオッチャンたちに、「これくらいの小学生の男の子を見ませんでしたか」と尋ねると、「ああ、誰かパタパタ走ってったのは見えたねぇ」という答えだった。

 だとしたら、先に見つけるのは島田しまだの方か。


 その時、スマホに通知があった。


“島田優花さんから友達申請がありました”のメッセージ。開いてみれば、リクエストメッセージの中に、『石の橋のところまで走って来て!!』と、切迫したセンテンスが格納されている。俺は慌てて走り出した。


 川の上流に走り、先ほどとは別の橋が見えてきた辺りで、島田がいた。

 柵から身を乗り出すように、川の方に向かって首を出している。このあたりは川沿いをコンクリートで固められていて、そこから落下すると危ないからと、コンクリートの土手と、歩道の間を、柵で区切られているのだが。


「島田!」

「ちょ、佐原さはら君! こっち!!」


 島田の示す先に柳之介がいた。柵を越え、土手を降りた先。水面から二メートルほども高さのある、コンクリートのへりの上に、柳之介が立っていた。


「お、おい! そんなとこで何してんだ!」

賢治けんじさんには関係ないでしょ!!」


 思いのほか柳之介は元気だった。悲しみよりも怒りが上回っているのかもしれない。

 だからと放っておけないと、島田も隣で声を張る。


「ねえ、そこ危ないから! こっちに来て!」

「やだ! なんで言うこと聞かなきゃなんないんだよ!」

「そこは危ないから! ねえ!」

「柳之介、こっち来いって! 頼むから!!」

「やーだ!!」


 会ってから一番の勢いで反抗されたが、そんなこと言ってる場合じゃなかった。

 もしも突風でも吹いて、あの小さな体が川に落ちてしまったら? お世辞にも綺麗とは言えない川には、不法投棄された粗大ゴミなんかも見えて、テラテラと反射する暗色の水面が、穏やかな風に波打っている。


「柳之介! そこは危ないから! なぁ、俺が悪かった! だからこっちに来てくれ!」


 悪かった、と口にした瞬間、柳之介の表情が揺れたのがわかった。

 泣きそうな顔。怒っているような、それか、悔しそうな。


「悪かったって、なんですか! 賢治さんが僕のこと、本当は嫌いなことですか? 僕が、賢治さんに告白なんかしたからですか? 僕が好きな人に“好き”って言ったら、誰かが悪者になっちゃうんですか!?」


「そうじゃないよ! お前のことだって嫌いじゃない!」

「でも、好きじゃないでしょ!!」

「そうじゃないって! 頼むよ柳之介、俺だって、そんなに大人じゃないんだよ……」



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