05.


「……おーい? 賢治けんじー?」

「あ、ああ? なんか言ったか?」

「……ぷふっ」


 雄太ゆうたが吹き出す。

 なんだその笑い方。


「……なに笑ってんだよ」

「いやさぁ、賢治まじ賢治だと思って」

「なんだそれ」

「お前に告った小学生は、お目が高いなー?」

「それどういう……」


 どういう意味だよ、と聞こうとしたところで、なんか察してやめた。俺は、俺自身が思っているよりは、モテる人間らしい。


「……雄太」

「なに?」

「俺、どうすればいっかな」

「好きにするしかなくね?」

「いやもう、“好き”がなんなのかわかんないわ。“好き”ってなんだっけ」

「時代は自由恋愛っすよ」

「だめだ、時代に気持ちが追いついてない」


 まじで追いついてない。


 天然魔神の雄太でも、“きっと理解できないだろうな”と思って話を振ったのに、なんだこの順応っぷり。それとも本当に、俺の方に問題があるのだろうか。実は時代は完全にそっちに流れてて、俺は知らず知らずのうちに取り残されているのか?


 不意に、瀬尾せおくんのことを馬鹿にしていた子たちを思い出す。


 ……なんか……今更だけどなんか、あー、俺って“あっち側”だなぁと思った。なんだかなぁ。なんだかなぁ。なんだかなぁ――


「あれっ、賢治さん!?」


 声のした方を向くと瀬尾くんが立っていた。

 初めて会った日のように、黒いランドセルを背中に背負って、ぽかんとびっくりした様子で俺の方を見ている。さっきまで話していた話題が話題だったので、俺は心臓がぎゅっと締められた気がしたが、瀬尾くんの表情にどろどろした感情は見えなかった。


「お……おー、瀬尾くん」

「今、帰りなんですか?」

「あっ、例の小学生?」


 げっ、勘づきやがった。


「レイの?」

「あー、いや瀬尾くん、こいつはな」

「あれでしょ、キミ賢治に告白したんでしょ」

「!!」

「!!」


 なっ、なんてことを言うんだ雄太! 瀬尾くんの顔色がサッと変わる。俺の顔がゲゲッとこわばる。お前自分が何言ってるのかわかってんのか!?


「……賢治さん、言ったんですか」

「あああああいやこれはなぁあああああ!?」

「そう、こいつから聞いた」

「お前さぁああああああ!!」


 バシンと雄太の体を平手で叩く! 勝手にひっかき回してくれてんじゃねぇよ!! まあこいつに言ったの俺なんだけどさぁあああああああああ!!


「おまっ、勝手に、こうっ、べらべらと!!」

「いやだって事実は事実だろ~? 隠しごとするといいことないぜ~」

「うるっせえよっ、雄太っ、他人の事情にお前が口を挟むな!」

「ええ~賢治だってさ~、俺という者がありながら~?」

「は、はあ~?」


 雄太は俺の肩をぐっと掴んで、ぐわんぐわんと揺さぶる。な、なんだ、やけにニヤニヤしてるな、こいつ。バシッと俺の腕のあたりを叩いてくる。イッテ。


「お、おい雄太……うぇっ?」


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