04.


「だから、お兄さんのこと、好きになったんです」

「…………」

「こんな人と一緒になりたいな、って、思いました」

「……そ、そうなのか」


 瀬尾せおくんの言う「一緒」が、どれくらいのものなのかはわからないが、俺のやったことを見て、覚えてて、そして好きになってくれたのだと言うなら……それは、嬉しくて。


「えっと……それは、素直に嬉しいわ。ありがとう」


 俺が礼を言うと、瀬尾くんの顔がパッと華やいだ。

 華やいだが、一瞬でしぼんだ。怯えた表情。

 ……それを見て、俺も、なんとなく察したのだ。


 たぶん、この子自身も、相当悩んだんだろうな、と。

 だから、それを断るのは……心が痛んで。


「ええと……じゃあ、瀬尾くん」

「うぇっ? は、はい」

「まず友達から~……じゃ、だめか? ほら、瀬尾くんのことよく知らないし……な?」

「そ、そんな! ダメじゃないです!」


 瀬尾くんは首をぶんぶん横に振る。嬉しそうな顔と、表情で。

 だがそんな眩しい笑顔が、“ただ、断るのも肯定するのも、辛いだけだったから”というずるい言葉の選び方をした俺には、ちょっぴり痛くて。


「嬉しいです! ありがとうございます!」

「あ……うん、よかった」

「そしたら、週末って空いてますか!?」

「えっ、週末」

「はい! 一緒に“デート”しましょう!」

「お……おう?」


 あれよあれよと流されて、取り付けられた週末の約束。


 その内容は、ともかくとして。

 小さい子が笑っているのを見ると、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。ずるいこと言ったけど、まぁ間違ってなかったのかも、と思うくらいには。


 俺はただ、自分を見てもらえたのが、嬉しかっただけなんだろう。






 で、今日が最初の約束の日。


 今更だが、俺はあの告白の後、家でガタガタ震えていた。告白……告白? あれは、告白だったんだよな。つい、普段接する機会のない年下がかわいくて、「よし遊ぼうか」なんて言っちゃったけど……あの場合の「遊ぶ」って?


 完全に不審者では?


 いやいや、まあまあ、と自分に言い聞かせる。小学生なんて、女の子とちょっと一緒にいるだけでからかわれるような年頃だ。たぶん瀬尾くんもそんな感じだろうし、天地がひっくり返っても、おかしなことにはなるまい。


「……ならない、よな」


 俺は指定された公園の入り口で、ひとりごちる。何年ぶりだ、この公園に来るの。

 俺も昔使ってたなぁ。小学校とは反対方向だから、人が少なくて、ちょっとした穴場なんだよな。


 瀬尾くんには場所と時間だけを指定された。このご時世、マイノリティーなのかマジョリティーなのかは知らないが、瀬尾くんはスマホを持っていないらしい。代わりに、名札の後ろにいつも隠しているのだという家電いえでんの番号を教えてもらって、電話帳に登録した。

 家電て。何年ぶりの登録だよ。自宅と祖父母宅以外ほぼ使わないぞ。


 そわそわしながら公園の入り口で十分ほど待ち、約束の時間まであと二十分か――と、なったところで。


「お兄さん! 早くないですか!?」


 パタパタと、瀬尾くんがやってきた。


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