第2話

01.


 恋愛 男同士

 小学生 恋愛 男子

 小学生 初恋 誰

 男性カップル

 男同士 セッ――



「……はぁ~~~~……」


 細長いため息が、教室の喧噪に消えていく。

 机にだらりと寝そべりながら俺は、検索欄に入力しかけた言葉を、ぷちぷちと消していった。なに考えてんだ、バカ。

 無理難題が過ぎる。オーソドックスな恋愛経験も少ないのに、どうしろと。


「どぉした、賢治けんじィ。ため息くと幸せが逃げてくぜ~」

「……雄太ゆうた


 今時誰がそんなの真に受けるかよ、と言い返してやりたかったが、そう言い返す元気もなかった。相当きてるな、と自分でも思う。

 雄太は俺の前の席にドカッと腰を下ろすと、小学生の時から変わらない、大きな体の腕白な顔に、ニカッと子供っぽい笑みを浮かべる。


「なんか、朝から様子おかしくね~? なんかあったん?」


 さすが幼馴染とでも言うか。いや、幼馴染じゃなくとも、こいつは意外と人の機嫌に敏い方だと、何年も一緒にいればわかる。そしてその見た目に似合わず、天然の不思議ちゃんキャラだということは、小学校の同窓生で知らない者はいない。

 こいつ、なら。


「……雄太」

「ほう?」

「あのな――」


 こいつなら茶化さないだろうと、覚悟を決めて、言葉を続ける。


「小学生の男子に、告白された」

「…………」

「……ん、ですけど」


 きょとんとした熊みたいな雄太の沈黙が、絶句しているのか、俺に詳細な説明を求めているのか。すぐにはわからず、妙な沈黙が流れる。


「…………」

「…………」

「……賢治ってモテるよなぁ~」

「モテねぇよ!!」


 どういうノリで突っ込めばいいのかわからなかった。俺はモテない。これは違いない。


「モテねぇから、マジ……」

「子供と犬に好かれんじゃん」

「そういうのじゃなくてぇ!!」

「違うのか」


 雄太は首を傾げる。道ばたに転がっている人間を、生きてるか死んでいるか判別する熊みたいに顔を寄せて、きょろきょろと俺のことを観察している。


「や……なんか本当に、恋愛的な意味で…………らしくて……」

「…………」

「…………」

「へぇー」

「へぇー、じゃねーよ!!」


 思わず声が大きくなる。こちらは真剣なので、軽く流されても困るのだ。


「『へぇー』じゃねーからマジで……のんきか!」

「あ、そいや桜井さくらいが、実家の酒蔵継ぐってさ。聞いた?」

「いや、なんで話題がそこに飛ぶんだよ!」

「思い出したから」

「自由か!」


 話がまとまらないが、まぁ、これはこれで、俺たちの平常運行だった。こいつは平気で道に迷うし、忘れ物するし勘違いするし、なんならけっこうでかいミスもする。言っちゃなんだが、ちょっと手の掛かる性質の持ち主だろう。小中高と、大きないじめに遭遇しなかったのは、本人の根っからの性格の良さと、恵まれた体格のおかげだと思う。


「いや、だからさ……さっきの話題。告白されたの。小学生の男子に」


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