06.


賢治けんじさん、行きたいところありますか? 今日どこに行きますか?」

「あ、あー……そうだな。えっと……柳之介りゅうのすけと話せるところなら、どこでも」

「俺と話せるところ……?」


 柳之介が首を傾げる。


「うん、そう。ゆっくり話がしたい」

「じゃあ……フードコートはうるさいですか? あ、図書館? 河原とか?」

「河原……河原かぁ」

「川沿いの、桜並木のところ好きなんです。春にママたちとよく行きます」

「あー、あっち方面ね。じゃあ、そっちで。歩きながら話そうか」


 町を東へ、東へと歩くと、そのうち川にぶち当たる。

 今はまばらに住宅が建っているが、川まで行けばそれがさらに減って、あとは手つかずの更地だったり、サイクリングロードと称されただけの、ろくに手入れのされていない一本道だったり、荒れがちな畑だったり。ともかく人は少なくて、話す場所にはいいだろう。


「柳之介はさ」

「うん?」

「えーと……ママとお母さんのことは好き?」

「うん……? 好きですよ」

「そっか。どんなところが?」

「ぅえ?」


 唐突な質問で戸惑っているようだったが、柳之介はウーンと悩んでから、


「ママは優しいし……料理上手なんです。あと、悩みとか相談があると、ずっと聞いてくれるんです。学校から帰ってから、夜までずーっと」

「へえ……」

「お母さんはコドモみたいだけど、でも仕事が早くて、上手くて、周りの人たちからすごく尊敬されてるんだって。あと、すごく物知りで、なんでも教えてくれるんです」

「……そっか」


 そう喋る柳之介は、自分の家庭環境に、なんの疑問も持ってない様子で。

 ……いいや。意外と冴えている子だから、もう勘付いているかもしれない。だけどそれを超えるだけの優しさとか、愛情とか……そういうものが、あの家にはあるのかもしれない。


「どうして急に、こんな質問するんですか?」

「ん? いや、なんとなく」

「なんとなく?」

「そう、なんとなく」

「…………」


 妙な沈黙が生まれた。柳之介は俺の方を、不思議そうな目で伺っていて。

 どこか不安げなその瞳の意味が、今なら少しだけわかる気がするのだ。

 だって俺も、同じ目をしていただろうから。


「なあ、俺の親の話もしていいか?」

「賢治さんの?」

「うん。といっても、まあ、そんな面白い話じゃないけど……うちは父さんと母さんがいて、父さんは会社員。母さんはパートで、スーパーのレジ打ちしてる」

「共働きなんですね」

「うん、まあ、そうだな。共働き。父さんはラジコンカーが趣味で、週末は愛車の手入れなんかしてる。たまに外に出かけて、走らせに行ってるよ。家にコレクションもある」

「賢治さんも? 賢治さんも、ラジコン好きなんですか?」

「俺は、地面走るのはあんまかなー。やるならドローンの方が面白そうだ」

「ドローン! いいな~」


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