07.


 何気ない、他愛もない会話が繋がっていく。

 どうでもいい話をしていると、柳之介りゅうのすけは意外なところに食いついたり、そこからまた別の話が広がったりして。そうそう、こういう話をしてなかったんだ、と思い出す。

 それまでどこか恐ろしく感じていた彼の存在が、その形が、少しずつ見えてくる。




「へぇ、じゃあスマホ欲しいんだ?」

「そうなんです。でも、お母さんがだめだって」

「そうか。ん~……でもまぁ、外で遊ぶ方が健全かなぁ。俺は中学生になるまで、持たせてもらえなかったよ」

「そうなんですか?」


 柳之介はホッとした様子で顔を上げる。

 ああ、と頷く裏側で、母二人が心配する気持ちもわかるなぁ、と思っていた。柳之介は好奇心旺盛だし、行動派だし、いろいろ手を出して危ないことに巻き込まれそうだ。


「でも、携帯みたいなのも持ってないんだな」

「うん。友達はスマホでやりとりしたり、待ち合わせする子も多いから、大変です」


 ああ、やっぱりこの世代の子はスマホ持ちが多いのだな、と思う。自分たちが小学生の頃は、まだお下がりのガラケーだったり、親から借りている子が多く、中学生になってからスマホを持たされる子が多かった印象だ。


賢治けんじさん! スマホ買ってもらったら、連絡先ください!」

「ああ、いいよ」

「やった!」


 途中、そういえばユータは元気ですか、ということを聞かれた。うん元気だよ、あいつ水球の大会で三位になってた、と告げると、すごい、と柳之介は素でびっくりした顔を見せる。


「ユータすごいんですね」

「あいつすごいよ。今度筋肉見せてもらえ、ムキムキだから」

「え~、ん~。ユータに自慢されるの嫌です」

「嫌なのか」

「あの人、会うたびに賢治さんとの仲良し自慢してきますもん」

「マジかよ」


 知らんかった。なにせ瀬尾せお家はご近所なので、俺だったり雄太だったりが、登下校のときに柳之介に会うのはたまにあるし、そのたびに「会ったよ」と報告するのだが、あいつそんなこと話してんのかよ。


 しばらく歩くと、川が見えてきた。

 休日なのだし、もう少し人がいてもいい気がするのだが、川沿いにちらほらと釣り人が見えるだけだ。来るのは久しぶりだけど、こんなに静かな場所だったっけ。

 でも柳之介と話すならうってつけかな――と思っていた、その時。


「……佐原さはら君?」


 その声が、響いた瞬間。

 その姿を、見る前に。


 白い羽毛に、サワ、と首を撫でられた気がした。ぞわ、と全身がくすぐられたような、それによってゾゾ、と身のすくむような、そんな瞬間で。


「佐原君だよね?」

「…………」


 背後から聞こえた声に、心臓が、ヒヤリと凍った。

 耳に一度食い込んで、消えない声。

 嬉しくて、恥ずかしくて、それで……


「…………?」


 俺より先に柳之介が振り向いて、いぶかしげな顔。

 まずい、と直感が告げた。

 パッと振り返って声の主を見る。女子。あまりに見覚えのある、女子。

 島田しまだ優花ゆうか


「あ、やっぱり佐原君」

「賢治さん、この人だれ――」

「お、おっす島田! 偶然だな!?」


 …………修羅場?


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