07.


「俺の方こそ、ごめんな。酷いこと言ってごめん」

「…………っ」

柳之介りゅうのすけの言うとおりだ。俺はお前のこと、好きになってやれない。たくさん考えたけど、やっぱり俺は、多分、男子とはだめなんだ」

「……うん」


 ボロ、と涙をこぼしながら、柳之介が頷いた。


「お前のせいじゃないんだ。絶対に」

「うん……うん」

「好きになってやれなくて、ごめんな。好きになってくれたのに」

「ううん……」

「けど、好きになってくれて嬉しかったよ。ありがとうな、勇気出してくれて」

「……賢治けんじさん」

「ああ、なんだ?」


「これからも、ずっと好きでもいいですか?」


 柳之介の問いは、深くて。

 俺には、荷の重い言葉で。

 だけど、もう大人にならなきゃいけない。

 自分に向けられるこの気持ちを、もうこれ以上、踏みにじってやりたくない。

 誰かを好きになることが悪だなどと、この少年に言ってやりたくないのだ。


「ああ、いいよ。当たり前だろ!」







 島田しまだを待っている間、柳之介にある携帯番号を打たせた。俺が自宅と自分の携帯と以外にそらで言える、唯一の番号だ。相手が出たことを確認すると、柳之介にことのあらましを説明させて、服やタオルやもろもろを持ってきてくれるように頼んだ。


 少しすると、島田が来た。釣り人は親切だった。俺の両親より一回り年上のオッチャンが二人。警察は勘弁してくださいという言葉と、柳之介と俺の様子を見て察してくれたらしい。「いやぁ、俺も昔は川に転がり落ちたもんよ」と、釣りのバケツを垂らすためのロープをって、簡易な綱にしてくれた。

 それを伝って登って、なんとか生還。「最後に大物釣っちまったぜ」なんて言って、ガッハッハと豪快に笑うと、オッチャンたちはそれ以上何も聞かずに去っていった。ビバ、地元。またここに来れば会えるだろうか。


 それとほぼ入れ違いで、でかいスポーツバッグを提げた雄太ゆうたが来た。


「えっ、マジじゃん。マジで落ちてんじゃん」

「いや、嘘とか言ってねーから」

「ってか、あれ? 島田? どうしてここにいんの?」


 と、雄太はふと、俺と柳之介と、島田の顔を一つずつ見回すと……


「……修羅場?」


 否定はしない。



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