08.


 雄太ゆうたのバッグの中身は大量のタオルと衣服一式。近くの寂れた公園の水道で、じゃぼじゃぼと全身を流す。まだようやく夏が始まったかという頃合いなので、ちょっと寒い。案の定スマホは死んでいた。金は乾かせばまだどうにかなるだろう。するとバッグの中をあさっていた雄太が、


「あ、そいやパンツねぇな」

「あ、やば。パンツ」

「ノーパンいけるか?」

「いや、ノーパンでお前の服着るのヤバくね」

「じゃあタオル巻く? フンドシ風に」

「いらないのある?」


 ここまで会話したところで、「あー、あー、あー」と、島田しまだが遮るように声を上げた。


「それくらいコンビニで買ってくるから。十分待って」


 と、告げると、島田はコンビニにひとっ走り、無難なネイビーのトランクスを片手に戻ってきた。と、俺にそれを手渡したあたりで、コンビニに入った女子高生が男物のパンツだけ買って帰ってきて、しかもそれを数日前に告白した相手に渡すというシチュエーションに気付いたらしく、「なにやってんだろ私……」と、しばらく顔を逸らしていた。


 公園に設置されたトイレで、壁に貼り付いていつ飛ぶかわからない蛾と、巣を張った蜘蛛に見守られながら真っ裸になるのはいただけなかったが、それでも一通りケアを終えて、入水前のまともな姿にはなった。雄太とは体格が一回り違うから、服がダボダボなのだけ、ご愛敬だが。

 トイレを出ると、太陽はだいぶ傾きかけていた。


「雄太、サンキュー。今度洗って返すよ」

「ん? 別にいーよ、いつでも」

「ごめん島田、迷惑かけた。予定とか、あったんじゃないのか」

「えー? う、あ~……。いいよ、いいよ。ちょっと買い物行くだけだったから~、うん。私は全然……それより」


 それより、と、島田が視線を向けたのは、柳之介の方だった。


柳之介りゅうのすけくんは、もういいの?」

「…………」

「……はは、あれかな。私はあんまり、好かれてないかぁ」


 自嘲気味に島田は微笑む。ほんの数時間一緒にいただけなのに、彼女の口調はだいぶ崩れて、素の表情を見せるようになっていた。

 すると、それを受けた柳之介は。


「そう、じゃないんです」

「え?」

「その……」

「うん?」

「お姉さん……すごく、綺麗なので……」

「へっ」


 島田の顔がポンと赤くなる。俺も予想外の答えだったので、「えっ」と柳之介の方を見た。なんか雄太は吹き出しそうになっていた。

 そして柳之介は、俺の腕に掴まると、


「あの……やっぱり女の人ってずるいですよね。かわいいから。いいなぁ、美人で」

「えっ!? ん、んんん、そうだな!?」



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