09.


 なんかどう反応すれば良いかわからないが、一番面白いのが島田しまだで、「えっ、いや、そんなっ」と、赤くなった顔を手で覆っている。これはあれだ。俺とか雄太ゆうたが言うとただの下心にしかならないやつが、柳之介りゅうのすけくらいのちっちゃい子が言うと、突然リアリティを帯び始めるというか、あマジでこれ純粋に褒められてるやつじゃん、というあれだった。

 つまり、嫉妬してたのか。柳之介よ。


 ちなみに雄太はというと、隣で笑いを堪えていて、


「ぶふっ、あ、いや、そうじゃない。そうじゃないぞ、柳之介ぇ、ふふっ。まずあれだ、島田に言うことあるだろ。さっき言った、な?」


 雄太のアイコンタクトを受けて、柳之介はウンと頷く。

 そして島田に向かって。


「迷惑かけて、ごめんなさい……」


 と、頭を下げたのだった。






 島田には全部説明した。少なくとも、なんで俺が川に落ちることになったのか、島田は知る権利がある。俺を中心に、雄太と柳之介がちょこちょこ補正しつつ、大筋のあらましを説明すると、すべて聞いた島田は戸惑い気味に、


「へ、へえ……世の中、いろんな人がいるんだねぇ」


 そう言っていたから、俺はなんだか親近感がわいた。


「あれかも。私、本当に男の子好きになる男の子って、知り合うのは初めてかも。友達がBLのマンガ読んでるから、なんか、それはわかるんだけど。柳之介くん、女の子は好きにならないの?」

「んー、あんまりー……たまに」

「島田のことは? きれいだって言ってたじゃん」


 俺が尋ねると、柳之介はちょっと口をとがらせて、


「女の人だって、きれいな女性のモデルさんを見て、『あーかわいい~』って言うでしょ。でもその人に恋をしてるわけじゃないでしょ。それと同じです」

「ああ、なるほど……」


 なるほどと言いつつ、わかるような、わからないような。

 それはそれで、“好き”の一つの形なのだろう。






 結局、柳之介は二人の母に全部話した。

 全部だ。俺と話したこと、一つ残らず。母たちには死ぬほど怒られて、同じくらい謝られたと言っていた。俺のところにも電話が来た。本当にごめんなさい、いやマジで気にしないでください、というやりとりを何回かして、後日ケーキをご馳走してもらった。


 島田の告白には、「こちらこそ」と返事をした。


 というか逆に俺がフラれそうになった。「思ったよりヘタレだった」という評価を頂戴したのである。何も言い返せないので、うん、自分でもそうだと思う……と肯定すると、


「でもね。ああ、やっぱり、私が好きになった通りの佐原君だなあって思ったよ。だから、うん。よろしくお願いします」


 ……今更だが。ありがたいことに、俺が自分で思ってたより、周りから好かれていることはわかったのだが、どうしてこんなヘタレが好かれるのかはまだわかっていない。

 また柳之介くんに会わせてね、と彼女は微笑んだ。










 この後は受験が待ってる。しばらく遊べなくなるな。

 けど、嫌でもない。

 勉強したいことがいろいろある。世界には、俺の知らないことがまだまだ、山のようにあるみたいだから。


 そういうものに、会ってみたい。

 そしたらきっと、また、見える世界が広がっていくんだろう。


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