04.


 俺の隣でおとなしくしていた瀬尾せおくんが、待ちきれなくなった様子でそう尋ねた。

 一瞬かみ合わなくなった会話に、俺は首をかしげる。


 しかし、羽菜はなさんは特に引っかかりもせず、


「ううん、部屋で寝てるわ。もう少ししたら起きるかな」

「ええっ、そうなの? 今日、賢治けんじさん来るって言ったのに?」

「どうせ起きないわよー、って言ったじゃない」

「うわー、そしたらいつもの寝癖ボサボサで来る!?」

「でしょうね~」


 二人の会話に違和感を覚えつつも、俺は、ああ、なんか安心したなぁと思っていた。瀬尾くんとの関係性は抜きにしても、人の家にお邪魔するのなんて久しぶりだし、ましてや初めて来る家なんて、どうすればいいのか忘れてたから。

 なので丁寧な応対を受けて、いい人だなぁ、と、噛み締めつつ。


「昼過ぎになったらきっと起きるわ。そうだ、賢治くん。お昼食べてく?」

「えっ!? あっ、考えてなかった……」


 唐突に話を振られて、俺は我に返る。


「よかったら食べていっちゃって。手料理が苦手なら、出前でも取るから」

「いや!? いやいやいや、悪いですよ! 手土産の一つもろくに持ってきてないですし……大丈夫なので、俺は」

「もう~、遠慮しなくていいのに~」


 羽菜さんはそう、口元に手を当てて笑った。


「賢治さん! ママの料理ね、すごい美味しいんです! プロみたい」

「そ、そうなの?」

「うん、本当に! だから、食べてくといいよ!」


 瀬尾くんは横から俺の顔を覗き込んで、目をキラキラ輝かせる。……まぁ俺も、本当に遠慮してただけだったから、そう推されると、折れるのも早い。


「は、はぁ。ええっと……じゃ、じゃあ」

「ママ、俺オムライスがいい!」

「こら。今日はお客さんがいるでしょ」


 おっとり、しかししっかりと、羽菜さんは瀬尾くんに言う。すると瀬尾くんも素直に、あ、そうだと思い出した様子で、だがちゃっかり、「賢治さんー、ママのオムライス美味しいんですよ?」と推すのだった。


「じゃ、じゃあそれで」

「はーい。あっ、リュウ。今日はゲームするの?」

「うん! 今日は――」


 と、瀬尾くんが言いかけたところで。

 ガチャリ、と、廊下の方から、扉が開く音がした。

 ……そこから、顔を出したのは。


「あ、すごーい、こんにちは~。君が柳之介りゅうのすけのお友達~?」

「……は、はい?」


 頭が寝癖で山盛りになった、羽菜さんと同い年くらいの女性、だった。


 ボサボサのショートカットヘアに、細身の体。

 男性……にしてはエロティックな下着みたいな寝間着、だと思ったが。

 声が、完全に女性で。


「…………ぇ?」


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