03.


 めちゃめちゃ普通に迎えられた。

 今、めちゃめちゃ普通にもてなされてる。


賢治けんじくん、苦手なものある? 甘いもの平気?」

「は、はぁ。平気です」

「よかった~。じゃ、好きなケーキ選んでくれる?」


 瀬尾せお家の、広々としたリビングで。


 瀬尾くんの母は、冷蔵庫から白い箱を取り出すと、その蓋を開けてこちらに見せた。

 中には宝石みたいなケーキのピースが五個収まっていて、俺の好みをだいぶ心配してくれたのかもしれない。甘そうな生クリームでデコレーションされたショートケーキに、大人びたビターのチョコレートケーキ、フルーツてんこ盛りのタルト、抹茶のシフォン、シュークリームと……とにかく色とりどりである。


 ソファに座らされた俺は、未だに心臓バクバクだ。まじでどうなってん、これ。


「えーと、じゃあ……これ」

「は~い。よかったらもう一個いく? どうせ余っちゃうし?」

「えっ!? いや、だ、大丈夫っすよ」

「そお~?」


 瀬尾くんの母は、俺の顔を見てクスクス笑う。

 活発な瀬尾くんとは対照的な、ふんわりとした女性だ。この女性が瀬尾くんのお母さんなのか、と思うと、どことなく違和感を覚える気もしたが、こんな人のもとでのびのび育ったから、瀬尾くんはこんなおおらかな少年になったのかと思うと、それはそれで納得できる。

 そして当たり前っちゃ当たり前なんだが、俺の両親よりだいぶ若い。いや、年齢差を抜きにしても、なんか、活き活きとした印象を受けた。


 綺麗なティーポットから、琥珀色の紅茶を注ぎ終わって。


「それじゃ、はじめまして。私はね、柳之介りゅうのすけの母で、名前は羽菜はなっていいます。気軽に“ハナ”って呼んでくれると嬉しいわ」

「あ、ども。えーと……佐原さはら賢治です」

「うんうん。賢治くん、よろしくね。忙しいだろうに、来てくれてありがとう」


 瀬尾くん母……羽菜さんと呼ぶべきなのか? 羽菜さんは小さい首を、うんうん、と機嫌良く振る。こうして見ると美人だし、実は俺とそれほど年齢が変わらないんですよ、と言われてもびっくりしない若々しさだ。お母さんってこんな感じだったっけ。

 こんなニコニコ挨拶されると、胸にわだかまっていた不安も、いつの間にかほぐされて。


「私はそのへんで、ちょっと家事とかさせてもらうけど、勘弁してね」

「い、いえ。とんでもないです」

「ふふ、ありがとう。困ったことがあったらなんでも言って」

「は、はあ。こちらこそ、お邪魔してます」


 うーん。俺も人並みには男子だから、こうもニコニコ応対されると、目のやり場に困るというか、率直に言って照れくさい。瀬尾くんには悪いが。


「ねえ、お母さんは? 仕事?」


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