02.


 あけすけな瀬尾せおくんのことだ。あっけらかんとそれを両親に説明し、顔も知らない両親が凍り付く姿を想像する。それを両親が容認するのか? いや、でも瀬尾くんによれば、「今日俺が遊びに行くこと」はすでに話していて、「両親の許可もある」「むしろ両親が呼んでいる」という話だったから、「告白した案件は言っていない」か、「相手がまさか高校生だとは知らない」の二択に、自動的になるのではないか。

 あるいは、「俺に釘をさすために呼んでいる」か。


 どっちにしても俺が行くの、まずくないか?


 逃げだそうとしたときには遅かった。エレベーターは五階に到着、扉はガーッと開いて、「こっちです!」と、瀬尾くんは俺の腕を引っ張った。507、506……と進んでいき、504号室へ。


 その表札には、「SEO」の下に、「SASAKI」の文字が並んでいた。


「ママただいま!」

「はーい、おかえり~」


 瀬尾くんは、開きっぱなしだったらしいマンションの扉を引くと、中に向かって元気に呼びかける。返ってきた女性の声も、普通の様子で……それが逆に、ウッと俺の胸を締め付けた。心臓に悪ィ……。

 母は台所で作業をしているのか、ジャー、という、ありがちな水道の音が聞こえてくる。


 やっぱ帰るか。今からでも遅くない。適当に電話が来たフリをして、あーはいはい今行きまーすとか行って、ごめんバイトに呼び出されたわー帰るねーとか、ありもしないバイトをでっちあげて……。


賢治けんじさん!」


 狡猾な言い訳を練って上の空だった俺は、瀬尾くんに呼ばれてハッと我に返った。玄関の扉を開いたまま、中途半端に中を覗き込んで、何も知らない人が見たら、これ以上なく不審者に見えるだろう。

 いけない、早くしないと。俺は慌てて、スマホの入ったポケットに手を突っ込……もうとしたら、瀬尾くんに引っ張られてしまった。


「あっ、わっ」

「ママ! 賢治さん」


 い、いかんぞ。

 水道の音が止んだ。向こうからパタパタと歩いてくる音が聞こえる。背後で扉がバタンと閉まった。もう逃げられない。万事休す。やがて廊下の向こうから女性の人影が現れ――


「はいはぁーい。初めまして~。あなたが賢治くんね?」

「…………は、はい」


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