03.


 思わず不機嫌に尋ね返すと、ヒィと雄太ゆうたは肩を震わせた。

 雄太のそれは、高三とは思えない、子供みたいな反応だし、俺も雄太にそんな反応をさせるたびに、ああ、今大人げないことをしてしまったなと、自分のことを省みる。

 痛いところを突かれただけだ。いくらでも自虐はするくせに、他人から言われると、他人に痛みをぶつけようとしてしまう。普通に最低だと思う。


「変な声出たわ。ごめん」

「あいや、俺も、よくない言い方しちゃった」


 素直に応える雄太は、過剰なくらい優しい。

 それで勘違いって――あれだよな……と尋ねようとしたところで、次の授業の開始を告げるチャイムが鳴った。

 自然と会話は途切れ、俺たちは授業の準備を始めた。





 ――勘違いさせることあるから。


賢治けんじ、頼まれごとを断るのと、人の短所指摘すんの苦手だもんな」

「あー、耳が痛い……」

「そうか? 悪いことじゃないと思うけど」


 帰り道。そんな話をしながら、俺たちは通学路を歩いていた。

 俺はバレー部で雄太は水球部だが、休みの曜日が被っているため、週に一回は一緒に帰宅している。幼稚園のころから一緒に歩いていた奴が、高三になっても隣にいるのだから、なんか面白い。


「それで、どうするんだ?」

「え?」

「オッケーするの?」

「え、いや、え?」

「えっ?」


 俺たちは顔を見合わせる。二人とも一様に目をきょとんとさせて、数秒黙っていた。互いの話の相違に耳を澄ませるように。

 そしてぽつりと、俺はつぶやく。


「……いや、その発想は無かったわ」

「まじでか。告白されたのに?」

「告白……」


 そうか。告白、されたんだよな。


「いやでも、小学生の男子って……つ、付き合えないだろ。俺、高校生だぞ?」

「え? でも小学校の中学年くらいなら、せいぜい、七歳か八歳差だろ? 一〇歳以上の年の差婚なんていくらでもあるし、そんなに変じゃないと思うけど」

「いや、いや、いや……そういう問題、じゃ……」


 そう否定しながらも、自分の言葉がだんだん弱くなっていくのを感じた。常識で測れば、自分の意見の方が平均に近い自信はあったが、雄太にそう冷静に諭されると、なるほど、そう思えないこともない。


 ……そうだ。俺は、告白されたんだ。


「じゃあ、なんと言えと?」

「賢治はそもそも、その子と付き合いたくないの?」

「ええー……?」


 悪い癖、発動。

 頭の中でうろうろと言い訳を探す。小学生だから。男子だから。子供じゃん。俺も子供だけどさ。付き合って、どうするんだ?

 わかっているのだ。自分が、ひどいことを思っていると。

 俺の思っていることを全部吐露したら、知らない誰かのことをも傷つけるのだと。


 そんな理由で断るには、あの瀬尾せおくんという少年は、いい子すぎるのだ。


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