09.


「はーい、横から失礼しまーす」

「うわっ、鏡子きょうこさん速くないですか!?」

「母さんショートカット全部覚えてんだもん! あーっ、間に合わないーっ」


 ……で、今はこんな状況。


 俺は鏡子さんと瀬尾せおくん……もとい柳之介りゅうのすけに挟まれて、テレビゲームに奮闘していた。乗り物にキャラを乗っけてコースを走らせる、定番のレースゲームだ。

 柳之介に誘われて始めたら、鏡子さんも「えーやりたい」と参加することに。

 で、この有様だ。鏡子さんが一周抜いて爆走中である。


「大人げないわよ、鏡子ちゃん」

「何言ってんの! もう大人だよなー賢治けんじくん!」

「いやまだ子供なんで! 手加減してください!」

「でも賢治さん俺より遅いよ?」

「これやるの久しぶりなの!!」


 高校に入ってから、めっきりテレビゲームはやらなくなってしまったから、純粋にコントローラーを握るのも、多分それくらいのブランクがあるだろう。

 てか、鏡子さん強すぎでは。


「あー、楽しかった」

「お母さんずるい! 速い!」

「ずるくありませーん」

「ぜ、全然追いつかなかった……」


 小学生の時には仲間内でゲームをやりまくっていたから、なんとなくわかるが、鏡子さんマジで強すぎるぞ。どういう経歴の人なんだ。


「次、賢治くんの得意なのやろう。何が好き?」

「え? えーっと、そうっすね。レースよか、アクションの方が……」

「ウッ、賢治さん、やめた方がいいですよ。お母さん化け物みたいに強いですよ」

「まじでか」


 まあレースであれだけボロ負けしておいて、アクションゲームでなら勝てるなんて、都合のいいこともあるまい。


「じゃ、共闘しようか。オンライン環境もあるから、チーム組もう」

「ああ、それだったら」

「えーっ! じゃあママもやろう!」

「ええ~? 私、やり方よくわからないんだけど~」


 そう言いつつも、羽菜はなさんも台所からやってくる。


「どれで攻撃だっけ……これ?」

「それジャンプ! こっちが攻撃」

「これ? あ、ごめんなさい。誰か潰しちゃったわ」

「あ、それ俺っす」

「えっ!? ごめんなさい! 生き返れる!?」

「だ、大丈夫ですよ、チュートリアルなんで」


 ……ゲームが始まってから。


 ゲームが始まってから、会話が楽だった。柳之介はそのまま子供だし、鏡子さんも少年っぽい。羽菜さんは、ゲームに慣れていない感じがウチの母にどことなく似ていて、だけどたまに起こすミラクルに、みんなでげらげら笑う。

 ゲームをしていると、今まで気になっていたことが、気にならなくなっていて。


 何を気にしていたんだろう、と思う。


 あんな小さなことを気にしていたなんて馬鹿みたいだ、とさえ思った。ゲームの中に映るキャラは、性別も種族もめまぐるしく変わる。羽菜さんも段々慣れてくると、楽しそうにゲームをしていて。


 気がつくと、夕方になっていた。


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