08.
「一緒にいい?」
改めて部屋から出てきた
「
「あ、はい。そうです」
「へえ、いいね。やっぱ、大変? 進路とか、勉強とか」
「大変……まあ、そこそこ……?」
大変、というと、大変だが。
受験勉強も塾の時間通りにやってるくらいだし、今はまだ塾の時間も増やしていないことを思えば、学生の本文をその通りに消化しているとしか思えない。
だから、今一番大変なことというと、そうじゃなくて。
「そんな時期に、
「え?」
「え、えー!」
ケーキをもそもそ食べていた瀬尾くんが、もふもふと抗議の声を上げる。
「だって、だって~……」
「柳之介ー、言ったでしょ? 高校生は忙しいんだから、無理強いしちゃだめだって」
「うぇ……でも、賢治さん、いいって言ってくれたもん」
「柳之介がおねだりしたんでしょー? ちゃんと『嫌だったらいいです』って言えた?」
「う……」
鏡子さんは一つ一つ、瀬尾くんに問い詰めていく。言い方こそ軽快だが、言っている内容は真面目だ。ウッと言葉に詰まるのは、瀬尾くんだけじゃなくて、俺もだった。
鏡子さんは俺の方に向き直る。
「柳之介から話は聞いてたから、ちゃんとお礼が言いたかったの。賢治くん、この子にかまってくれて、ありがとう」
「い、いえ。大したことは、別に何も……」
「本当はすぐにでも謝りに行こうかって、彼女とも話してたんだけれど……挨拶が遅れたのも、ごめんなさい。何せ相手が全然知らない高校生だし、怒られも断られもしなかったっていうから、どうすればいいか、私たちも迷っちゃって。それに、私たちも“こう”だからねぇ。びっくりさせちゃ悪いし」
「あ、あー……」
少しずつ状況が見えてきた。
瀬尾くんと俺の関係を、多分彼女たちは知っているのだろう。俺がそれを断らず、うやむやにしようとしていることも、きっと察している。
だけど言われてみれば確かに妙だ。小学生に告白されて、怒りもしないし断りもしないし、なんだったらその後普通に遊びに行ってるって。どんな人物像だよ。
俺かよ。
普通に礼を言われて、普通に話をした。
話せば話すほど、普通だった。ただやっぱり、大人の女性二人の間に、小学生の男の子が挟まれている光景は、俺からすると奇妙で。
違和感を覚えるとともに、納得したのだ。
これが彼の“親”なんだなと。
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