07.


「あっ、そうだっ、あのっ」


 瀬尾せおくんが俺の袖をぎゅうぎゅう引っ張る。


「どうした?」

「あの、今週末空いてますか? 日曜日……忙しかったら、いいんですけど」

「あ、ああ~……」


 そういや、次に会う約束とか、なんもしてなかったな。今日会ったのもびっくりだ。

 すると雄太ゆうたが首を傾げる。


「あれ? 賢治けんじ、部活いつだっけ」

「土曜日だよ。日曜は休み」

「ふぅ~ん。それで日曜日にね~……? 場所は?」


 な、なんだこいつ。今日やけにニヤニヤしてるな。とか、のんきに考えていたら。

 ジロッと、雄太の方を見ていた瀬尾くんが呟く。


「……お前、来るつもりだろ」

「えっ、そうなのかよ」

「はっ、そんなん俺の自由でしょ」

「マジで!?」

「いーじゃん別に、お前らまだ付き合ってないんじゃねーの」

「やめろ! 俺たちのデートに首突っ込むな!」

「んんんんんんん瀬尾くん!!」


 なんかもう誰をフォローして誰を咎めるべきなのか謎だ。逃げちゃダメですか。マジで逃げちゃダメですか。というかお前らの方がなにげに仲いいじゃん、お前らが付き合えよ!!





 ひとしきり話して、瀬尾くんとは別れた。


 結局、週末のデートだけ見張らせろ、そこから先は好きにしていいから賢治とキスでもアレでもコレでもすればいいよ俺は文句言わねーと雄太が告げ、約束だな! と勇ましく瀬尾くんが言って話は終わった。

 瀬尾くんの「アレコレ」って……どこまでのことを言ってるんだろう……俺があの年頃だったときには、まだそんな知識無かったよな……?


「……お前さー……」

「ん?」


 雄太の隣で、俺は怒っているやら悲しいやらやりきれないやらだ。

 なぜああも火をつける。雄太が今まで見たことがないほど生き生きとしてるから、なんか咎めづらくて強く出られなかったけど(これでも耐えた方なのだ)、感じたことのない緊張に、俺の胃はきゅるきゅると押しつぶされていた。

 やば。ちょっと泣きそう。


「もう俺、どうすればいいんだよ……」

「ん。って、ん!? 賢治!? どうした!? 泣きそうなのか!? 腹イタか!?」

「どっちも」


 顔を押さえる俺に、雄太が慌てている。ちょっと面白い。

 いつもの俺なら怒ってるんだろうなぁ、と、他人事みたいに思った。何言ってんだバカヤローこっちの気も知らねぇで俺を巻き込むんじゃねぇよバカ勝手にやってろと、心の中で汚い言葉がゴチャゴチャと溢れてくる。

 だけどそれらは、一つも言葉にならなくて。


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