第18話 文化祭当日
朝の憂鬱
「文化祭なんて、誰が楽しみにしてるんだろう……」
そう呟きながら、樹奈はいつもより重たい足取りで校門へ向かっていた。空は快晴。校庭ではすでに屋台の準備が進み、焼きそばの香ばしい匂いや楽しそうな声が漂ってくる。学校全体が浮かれた空気に包まれているのが、余計に憂鬱だった。
「なんで私がモデル役なんて……」
昨日までの緊張が体の中に残り、心臓がドクドクと音を立てる。それに加えて、今日のイベントで目立つことを考えると、胃がキリキリ痛むようだった。
校門前の騒動
校門に近づいた瞬間、目に飛び込んできたのは異様な光景だった。
何十人もの人々が、校門の外で何かを待ち構えている。年齢もバラバラで、カメラやスマホを手にした大人たちも混ざっていた。
「えっ、なにこれ……?」
一瞬、足が止まる。次の瞬間、群衆の中から一斉に視線が集まり、誰かが叫んだ。
「来たぞ!樹奈ちゃんだ!」
ドッと歓声が上がり、無数のカメラが一斉にこちらを向く。
「やめてよ、もう……なんでこんなことに……」
混乱する中、耳に飛び込んできたのは、妙にそろった声だった。
「般若心経……般若心経……」
「なんでお経!?」
一気に状況が分からなくなる。
スマホを取り出してミロクのSNSを開くと、そこには……私のポスターの動画が投稿されていた。しかも編集されたお経BGM付きの動画だ。スローモーションでズームされる自分の顔に、再生数は10万を超えていた。
「このバカ……!」
怒りに燃える樹奈は、ミロクにメッセージを送りつけた。
「ミロク。今すぐ学校に来い。10秒以内で。」
トイレでの激怒
数分後、ミロクが校門に現れると、樹奈は無言で彼女を掴み、トイレへと引きずり込んだ。
「ミロク!どういうつもりなの!?」
ミロクは少し申し訳なさそうな顔で、けれど誇らしげに言った。
「そなたの魅力を広めるためじゃ。これで皆が喜ぶはずじゃろ?」
「喜ぶ!?私がどんな気持ちでいるかわかるの!?」
怒りが爆発した。
「お前なんか……嫌いだ!」
その言葉に、ミロクはショックを隠しきれない表情を浮かべた。何か言いかけたが、そのままトイレを出ていった。
(あ……言い過ぎたかも……)
一瞬の後悔が胸をよぎるが、引き返せなかった。
サバイバルゲームの開始
文化祭の目玉イベントであるサバイバルゲームが始まった。なゆた先生が企画した校舎全体を使った大規模イベントだ。
「樹奈ちゃん、準備できてる?」
軍服姿の樹奈を見て、なゆた先生は笑顔を浮かべる。
「その格好、本当に似合ってるわね。うふふ、後でその虎耳も触らせてほしいな!」
「先生、もうやめてください!」
気の抜けるやり取りをしながらも、会場の熱気は最高潮だった。サバイバルゲームのルール説明が始まると、参加者たちの興奮が伝わってくる。
校舎内での戦い
ゲームが始まると、校舎はまさに戦場と化した。廊下では隠れる者、待ち伏せする者、そしてペイントガンで撃ち合う者たちが入り乱れる。
「瑠衣、右から敵が来てる!」
小南瑠衣(こなみるい)と共にチームを組んだ樹奈は、指示を出しながらターゲットを次々と撃破していった。緊張感が増す中、不思議と楽しい気持ちも芽生えていた。
(なんでこんなことしてるんだろう……いや、でも意外と楽しいかも。)
ミロクの不在
ゲーム終了後、優勝者が発表されたが、樹奈のチームではなかった。表彰式で盛り上がる会場を眺めていると、ふとミロクの姿を探している自分に気づく。
「ミロク……どこ行ったんだろう?」
他のクラスメイトに聞いてみると、「あの不思議ちゃんなら、学校を出ていったよ」と軽い口調で返される。
胸が締め付けられるような感覚が広がった。
夜の再会
文化祭が終わり、帰宅すると、ミロクが玄関前に座り込んでいた。
「……ミロク様?」
顔を上げた彼女の目には、涙の痕が残っていた。
「樹奈姉様……わらわの行動が迷惑だったのじゃな……」
彼女の言葉に、樹奈は何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。ただ、そっと手を差し出し、彼女を抱きしめた。
「ごめん、あたし、言い過ぎた。いつも助けてくれてるのに……ありがとう。」
その言葉に、ミロクの目からまた涙がこぼれた。
完成したポスター
後日、なゆた先生が撮影したポスターが完成したと知らせてくれた。
「ほら、これが完成品よ!」
なゆたが掲げたポスターは、樹奈がポーズを決めた軍服姿。しかし、それを見た瞬間、樹奈は驚きのあまり声を失った。
「先生……これ、なんで般若心経が背景にあるの!?」
「芸術よ、黒猫さん。これが文化祭の象徴なんだから!」
呆れつつも、樹奈はポスターを眺め、少しだけ笑った。
(こんな騒動も悪くない……かも。)
次回予告
「文化祭が終わっても、次はもっと波乱が待ってる!」
樹奈たちの絆が深まる次のエピソードに期待してほしい――!
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