第28話 使いっ走りの菩薩様、博多弁美女に翻弄される。

朝日が柔らかに差し込む宇佐美家のリビングには、紅茶の香りが漂っていた。ララと瑠美はソファでくつろぎながら、テーブルに座るミロクをじっと見つめている。だが、その視線に気づかないミロクは、湯気の立つティーカップを手に、どこか神妙な表情を浮かべていた。


ララが軽く笑いながら問いかける。

「ねぇ、ミロクちゃん。すずに利用されてるって、まだ気づいてないの?」


その言葉にミロクは顔を上げると、真剣な目つきで言い返した。

「利用されておる?そんなことは断じてない!すず殿はわらわにとって“妹”のような存在なのじゃ。彼女の笑顔は、この世に舞い降りた天使のごとき輝きを持っておる!」


瑠美はため息をつきながら、ティーカップに口をつけた。

「その天使にいいように使われてるのよ。昨日のマクドの話とか、完全にお使いだったじゃない。」


ララもソファから身を乗り出し、指を振る。

「そうそう。それに“お釣りで好きなもの買っていいよ”なんて、完全に子ども扱いされてるじゃん。」


ミロクは不満そうに口を尖らせ、ティーカップをテーブルに置いた。

「そなたたち、わらわのすず殿への信頼を誤解しておる!あの時の優しさを見れば、誰もがすず殿を菩薩と崇めるであろう!」


ララは呆れたように肩をすくめる。

「菩薩ねぇ…。その“博多弁の甘え上手作戦”に完全にハマってるだけでしょ。」


制服採寸の裏側


ミロクは反論を試みるように口を開いた。

「しかし、制服の採寸の時だって、すず殿はわらわのために服を選んでくれ、優しく手を差し伸べてくれたのじゃ!」


ララがじっとミロクを見つめ、ニヤリと笑う。

「あー、その話ね。で、採寸手伝うとか言いながら、やたら触ってきたんでしょ?」


ミロクは一瞬言葉を失い、頬を赤らめる。

「そ、それはすず殿がわらわのために動いてくれた証であり、決して悪意はない!」


ララは片眉を上げながら言った。

「いやいや、完全に楽しんでるでしょ。ミロクちゃんのこと“お人形みたいで可愛い”とか言ってたよね?」


ミロクはますます顔を赤くして視線を逸らした。

「そ、それは事実なのじゃ…。しかし、それがすず殿の心優しい性格を示しておるだけ!」


瑠美が冷静に口を挟む。

「それって、完全に反応を楽しんでるだけだと思うわよ。」


二人の冷静な指摘


ララはティーカップを持ち上げながら、少し困った顔を見せる。

「すずってさ、ああ見えてかなり計算してるよね。私も何度か“ちょっとだけ”って頼まれたけど、気づいたら全部やらされてたもん。」


瑠美もうなずきながら、静かに言葉を重ねる。

「そうよね。しかも最後に“ありがとう”って満面の笑顔で締めくくるのがすごいのよ。演技力が抜群なんだから。」


ミロクは眉をひそめながら、テーブルに視線を落とした。

「そなたたち、それはただの誤解じゃ。すず殿は純粋に感謝しておる!」


ララは笑いをこらえながら肩をすくめる。

「そう思わせるのが、すずの技術なんだってば。」


瑠美も微笑みながら続けた。

「ミロクちゃん、すずちゃんに振り回されるのはいいけど、少しは自分を大切にしたらどう?」


ミロクの決意


ミロクはしばらく考え込み、困惑した表情を浮かべていたが、やがて顔を上げた。

「わらわは……すず殿を信じたい。たとえそれが間違いであったとしても、彼女が困っておるなら助ける。それがわらわの“菩薩としての務め”なのじゃ!」


ララは呆れたように深いため息をつきながら言う。

「菩薩ねぇ…。じゃあ、次にすずが何か頼んできたら、ちゃんと自分の意志で判断してみなよ。」


瑠美も静かに微笑みながら言った。

「そうね。利用されるだけじゃなくて、たまにはあなたが主導権を握るのも大事よ。」


ミロクは深呼吸をしてから頷いた。

「わかった。次にすず殿が頼みごとをしてきた時、わらわが真の“菩薩”としてどうあるべきかを見せるとしよう!」


新たな波乱の予兆


その時、リビングのドアが軽くノックされ、静かに開いた。明るい声が部屋を満たす。


「お待たせしました~!さやりん特製のお茶をどうぞ!」


ララは目を丸くして振り返る。

「さやりん、タイミング良すぎじゃない?」


瑠美もため息をつきながら言った。

「ほんと、何かが起きそうな時には必ず現れるのよね。」


ミロクは怪訝な顔でさやりんを見つめる。

「……そなた、まさか話を聞いておったのか?」


さやりんはにっこりと微笑み、急須を掲げながら答えた。

「いえいえ、偶然ですよ!でも、ミロク様が“菩薩”って言ってるのが素敵だな~って思っただけで!」


ミロクは胸を張り、誇らしげに言い放つ。

「ふふん、そうじゃろう!わらわはすず殿を守る“菩薩”であるからな!」


ララはため息交じりに肩をすくめた。

「ほんとに、それで大丈夫なのかなぁ…。」


瑠美はティーカップを手に、軽く微笑む。

「ま、次にすずちゃんに会った時が楽しみね。」

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