第29話 すずの囁き、ミロクの覚悟

「ミロクとすず:策略と純情の狭間」


1. 寝小便事件の新事実と疑惑


宇佐美家のリビングでは、朝の柔らかな光の中で紅茶の湯気が立ち上り、三人がテーブルを囲んでいた。だが、その話題は全く優雅なものではなかった。


「わらわが寝小便をしたなど、断じて真実ではない!」

ミロクは顔を赤らめながらも、真剣そのものの表情で訴える。


ララはスプーンを回しながら、ニヤリと笑みを浮かべる。

「でもさ、すずの“内緒ばい”って台詞、どう考えても怪しくない?」


瑠美も紅茶を一口すすり、少し考え込むように言った。

「そうね。そもそも、すずちゃんがシーツを片付けた理由があるのかしら?」


ミロクは困惑しながらも、毅然と反論する。

「すず殿の優しさに決まっておる!わらわが恥をかかぬよう、そっと助けてくれたのじゃ!」


瑠美の頭には、すずの日常的な言動が浮かんでいた。彼女はミロクを見つめ、静かに指摘する。

「でもね、もしすずちゃんが夜中にジュースでもこぼして、それを隠すために“内緒ばい”なんて言ったとしたら?」


「なんと!?」

ミロクの目が驚きに見開かれる。


ララは机を叩いて勢いよく話を続けた。

「それ完全に自分のミスを押し付けてるでしょ!しかも、博多弁でおどけながら“ミロク様、寝小便しちゃったんですか?”って言うの、超ありそう!」


「そんなことはない!すず殿は純粋で清らかな…!」

ミロクは激しく否定するものの、ララと瑠美の視線に押されて、次第にしどろもどろになっていく。


「まあ、本人が信じてるなら、それでいいんじゃない?」

瑠美は苦笑しながら結論を出すが、ララはなおも追撃を仕掛ける。


「ミロクちゃん、それって信じてるっていうより、完全にいいように使われてるってだけじゃない?」


「そ、それでもわらわはすず殿を信じるのじゃ!」

ミロクの声はどこか苦しげだった。だが、その純粋な信頼を見て、瑠美とララは互いに目を合わせ、微笑みを浮かべる。


2. 母乳事件と病院行きの話題転換


寝小便事件に関する話題が一段落すると、ミロクは何とかして話題を変えようと、急に顔を引き締めた。


「ところで、病院には今日行くのかの?」


その問いに、ララはスプーンを落としそうになりながらニヤリと笑う。

「え?病院?寝小便の診察でもするの?」


「な、何を言うのじゃ!」

ミロクは慌てて手を振り、声を荒げる。

「そなたたちが母乳の件で心配しておったから、わらわなりに気を遣ったのじゃ!」


瑠美は静かに紅茶を置きながら、冷静に応じる。

「でも、本当に病院には行った方がいいわよ。礼子さんの体だからって軽く考えられない問題もあるんだから。」


「そうそう!」

ララは勢いよく頷くと、追い打ちをかけるように続ける。

「だって、母乳が出るとか普通じゃないじゃん!ミロクちゃん、もし妊娠してたらどうするの?」


「な、なにを言うのじゃ!」

ミロクの顔は一気に真っ赤になり、声も上ずる。

「わらわが妊娠するはずなどない!そもそも、わらわは男の魂じゃぞ!」


「でも体は礼子さんなんでしょ?」

ララは笑いをこらえながら肩をすくめる。

「魂が男でも、体が女性なら何が起きてもおかしくないじゃん?」


「そ、それでも妊娠など…そんなこと……!」

ミロクはさらに混乱し、額に手を当てる。


瑠美は静かに微笑んだまま、淡々とした口調で助言をした。

「妊娠しているかどうかは別として、一度体の状態を確認する必要があるわね。礼子の体がどうなっているのか、ちゃんと把握するべきよ。」


ミロクはしばらく考え込んだ後、しぶしぶと頷く。

「むう……そなたたちがそこまで言うなら、一度行ってみるとしよう……。」


3. 締めとすずの計り知れない策略


話題が収束に向かう中、ララは新たな提案を持ち出す。

「じゃあ、病院から戻ったら、すずにもこの話を教えてあげようよ。」


「すず殿に?」

ミロクは顔を上げ、少し警戒した様子を見せた。


瑠美は苦笑しながら答える。

「すずちゃんのことだから、“ミロク様、大丈夫だったとですか?”とか言いつつ、また何かお願い事をしてくるんじゃない?」


ララは吹き出しそうになりながら言った。

「それで“ミロク様、この薬局でお薬買ってきて~!”とか言って、またお駄賃もらってる姿が目に浮かぶ!」


「そんなことはない!すず殿は心からわらわのことを案じてくれておる!」

ミロクは声を張り上げるが、ララと瑠美はその純粋な信頼に再び笑みをこぼす。


「まあ、ミロクちゃんがそれで幸せなら、それでいいけどね。」

瑠美は肩をすくめ、茶をすする音を立てた。


ミロクは不満そうな表情を浮かべながらも、どこかで納得している様子だった。そして、ララと瑠美はそんなミロクの純情さを見て、やれやれと肩をすくめながらも温かな視線を送るのだった。

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