第21話 宇佐美ララ「雫」を熱く語る

夜の静けさが室内に広がり、ほんのりとした暖かさが部屋全体を包み込む。ミロクは宇佐美ララに手招きされ、彼女の部屋に足を踏み入れた。心地よい柔らかさが部屋中を満たし、ぬいぐるみや観葉植物が控えめながらも彩りを添えている。


「ふむ……そなたの部屋は独特じゃな」


ミロクはまじまじと部屋を見渡しながら呟いた。目に入るものすべてが新鮮で、どこか浮世離れしているように感じられる。


「どう?居心地いいでしょ?」


ララは笑顔で答える。その無邪気な笑みに、ミロクも少しだけ緊張がほぐれる。


「確かに居心地は良いのう……まるで別世界に迷い込んだ気分じゃ」


そんなミロクの目に、部屋の一角に飾られた大きなポスターが飛び込んできた。それは、ギターを抱えた一人の女性が写っているもので、文字には「雫」と書かれている。


「……この者は誰なのじゃ?」


「この人?雫さんだよ!」


ララの顔がぱっと明るくなる。その目は輝き、ポスターの女性に対する憧れが一瞬で伝わるほどだった。


ララの好きな音楽との出会い


「雫さん……そなたが大事にしている存在のようじゃな」


ミロクが慎重に尋ねると、ララは満面の笑みを浮かべながら頷いた。


「うん!雫さんの曲を聴くと、どんなときでも元気が出るんだ」


そう言いながら、ララは小型のスピーカーのスイッチを押す。柔らかなメロディが部屋中に広がり、透き通るような歌声が二人を包み込んだ。


「この曲は……?」


「『星屑のリフレイン』だよ!雫さんの中で一番有名な曲なんだ」


ララの目はさらに輝きを増し、そのまま語り始める。


「実はね、私、不登校だった時期があったんだ」


「そなたが……?」


ミロクは驚きを隠せない。彼女の明るさや前向きさからは想像もつかない過去だった。


「学校に行くのが怖くて、部屋に閉じこもる毎日だった。でもね、この曲に出会って救われたの」


ララは目を伏せ、静かに曲の歌詞を口ずさむ。


「夜空の星も欠けた月も、みんな自分の輝きを探している」


「この歌詞を聴いたときね、『私も輝きを探さなきゃ』って思えたの。それから少しずつ勇気を出して外に出られるようになったんだ」


ララの言葉には力強さと誠実さが宿っていた。ミロクはその話に耳を傾けながら、何かを考え込むように目を伏せる。


ミロクの気づきと決意


「音楽が……人の心を救うものとは」


ミロクはその言葉を繰り返し、深く噛み締めるように呟いた。ララの話を聞き、雫の音楽がどれだけ大きな意味を持つのかを改めて実感した。


「わらわも、誰かを救える存在になりたいものじゃ……」


その呟きに、ララは力強く頷く。


「ミロクちゃんなら、絶対になれるよ!だって、こうやって私のことも助けてくれてるじゃない」


「ふむ……そなたの言葉には説得力があるのう。ならば、わらわも誰かに感情を伝えられる存在を目指してみるか」


「ほんと!?じゃあ一緒に頑張ろうよ!」


ララは勢いよくミロクの手を取り、その笑顔でミロクを引き込んでいく。ミロクは少し驚きながらも、彼女の手を握り返す。


瑠美の登場


そのとき、部屋の扉がノックされ、ララの姉・瑠美が顔を覗かせた。手には湯気の立つカップを持ち、柔らかな笑みを浮かべている。


「ララ、なんだか今日は賑やかだと思ったら、友達が来てたんだね」


瑠美はスッと部屋に入り、ミロクにカップを差し出した。


「これ、ホットミルク。冷えた体にはこれが一番だよ」


「ふむ、礼を言うぞ」


カップを受け取りながら、ミロクは瑠美をじっと見つめる。


「そなたが……ララの姉か」


「そうよ。宇佐美瑠美、よろしくね」


「ふむ……これはまた、面白い縁じゃな」


ミロクがどこか得意げに呟くと、ララが即座にツッコむ。


「何が面白い縁なのよ。変な言い方しないでよね」


「いや、わらわにとっては興味深いというだけのことじゃ」


瑠美はくすくすと笑い、ララは呆れたように肩をすくめる。


雫のエピソードと友情の深化


「そういえば、雫さんってね……売れないころは本当に大変だったらしいよ」


ララは再び熱を込めて語り始めた。


「アルバイトを掛け持ちして、それでも生活がギリギリだったらしい。でも、それでも音楽だけは絶対に諦めなかったんだって」


「……そんな苦労があったのか」


ミロクは静かに頷く。その真剣な表情に、ララはさらに言葉を重ねる。


「だから、雫さんの曲ってどれも力強いんだと思う。諦めないっていう気持ちがすごく伝わるの」


「ふむ……わらわも、誰かの心に届くような存在になりたいものじゃ」


ミロクのその言葉に、ララは満面の笑みを浮かべた。


「ミロクちゃんなら、絶対できるって!」


突然の宣言


部屋に静けさが戻り、ミロクがそっと息を吐く。そして、まるで心に決めたように口を開いた。


「……わらわも音楽を作ってみたい」


その言葉にララは目を見開き、驚きながらも嬉しそうに笑う。


「え!?ミロクちゃんが?面白そう!絶対やろうよ!」


「ふむ……そなたのように誰かを救う歌を、わらわも作ってみたいと思ったまでじゃ」


瑠美もそのやり取りを聞き、微笑みながら口を挟む。


「それなら、まずは簡単な歌詞を作ってみるのがいいかもね。私たちも手伝うよ」


その夜、三人の間に新たな目標が生まれる。そしてミロクは、自分の中に芽生えた新たな感情とともに、少しずつ新しい自分に向き合い始めていったのだった。


次回へ続く。

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