ミロクとうさ耳の女の子と時々ドジっ子メイドラゴン

第20話 うさ耳少女、銀髪少女の仏様を泊める

夜の公園での出会いと誘い


夜の公園は冷え込む風に包まれ、街灯が木々を揺らしていた。

ミロクはベンチに腰掛け、両手で顔を覆いながらため息をつく。


「わらわは、どうしてこうも役に立たぬのじゃ……」


ぽつりとこぼれたその言葉は、闇夜に吸い込まれるように消えていく。

樹奈の「嫌いだ」という言葉が耳元で何度も反響するようだった。


「そなたなんか……嫌いだ!」


ミロクは頭を抱え、膝の上で拳を握りしめた。


そんな中、軽快な足音が近づいてきた。


「あれ?ミロクちゃんじゃない?」


柔らかい声が響き、ミロクが顔を上げると、そこにはうさ耳パーカーを着た宇佐美ララが立っていた。

リードにつながれた小柄な白い犬が、ミロクをじっと見つめている。


「ララよ、こんな時間に何をしておるのじゃ?」


「いやいや、こっちのセリフだよ!夜の公園でひとり泣いてるなんて、何かあったの?」


ミロクはそっぽを向き、冷たく返した。


「そなたに関係のないことじゃ。」


「関係あるよ!だって友達じゃん。困ってる友達を見過ごすなんて私にはできないもん。」


ララの真っ直ぐな言葉に、ミロクは一瞬だけ戸惑いの表情を浮かべた。


「……友達、か。」


「とりあえず、寒いでしょ?家においでよ。温かい紅茶くらい出してあげる。」


「わらわがそなたの家に泊まるなど、迷惑ではないか?」


「迷惑だったら言わないってば!さあ、行こう!」


ララはミロクの手を引き、ためらう彼女を強引に連れ出した。


家までの道中


冷たい夜風が二人の頬を撫でる中、ララとミロクは並んで歩いていた。


「そなた、夜遅くに犬の散歩など、危険ではないのか?」


ミロクが真剣な顔で問いかけると、ララは軽く笑った。


「私、意外と強いんだよ。誰かが襲ってきたら、一発で倒せる自信あるし。」


「強い……そなた、戦の心得があるのか?」


「戦の心得って……いやいや、普通に護身術だけど。」


ララの自信満々の背中を見つめ、ミロクは少しだけ気が緩むのを感じた。


しかし、すぐに頭の中に樹奈の声がよぎる。


「なぜ、わらわが動くたびに樹奈姉様を傷つけてしまうのじゃ……」


ミロクの小さな呟きに気づいたララは、足を止めて振り返る。


「ミロクちゃん、それ樹奈ちゃんのことだよね。」


「……その通りじゃ。わらわは樹奈姉様を救おうとしておった。それが迷惑だったとは……」


ミロクは拳を握りしめながら続けた。


「樹奈姉様は、不器用で、時に厳しい言葉を放つが……本当は誰よりも優しい心を持っているのじゃ。わらわは、その心を支えたいと願っていた……それなのに……」


ミロクが真剣に語り始めたのを聞いて、ララはニヤリと笑った。


「ねえミロクちゃん、それ、好きってやつじゃないの?」


「す、好き……?いや、わらわの感情はそういうものではなく……!」


ミロクが慌てると、ララは肩をすくめて軽く笑った。


「だってさ、その話し方、完全に『好きな子を語る人』のやつじゃん!」


「そ、そんなことはない!樹奈姉様はわらわの大切な友……」


「はいはい、友達ね~。でもさ、ミロクちゃん、真剣に思うのはいいけど、ちょっと真面目すぎるんじゃない?」


「真面目すぎる……?」


「うん。樹奈ちゃんって、不器用だけどきっとミロクちゃんのこと嫌いじゃないと思うよ。ただ、ミロクちゃんが仏様モード全開だから、どう接していいか分からないんじゃない?」


「わらわが……全開?」


ミロクがきょとんとする顔を見て、ララは吹き出した。


「そう!だからもう少し力を抜いて、普通に接してみたら?仏様じゃなくて、一人の友達としてさ。」


その言葉にミロクは小さく頷き、心の中でララの言葉を反芻する。


ララの家でのひととき


ララの家に到着すると、玄関から木の温もりを感じる香りが漂ってきた。

ミロクは少し緊張した面持ちで中に入る。


「ただいまー!ミロクちゃん連れてきたよ!」


リビングから顔を出したのは、ララの姉・宇佐美瑠美だった。


「珍しいね、ララが友達を連れてくるなんて。」


「この人、ミロクちゃん。樹奈ちゃんのお友達なんだよ。」


「初めまして、ミロクちゃん。ゆっくりしていってね。」


瑠美の穏やかな声に、ミロクは少しだけ肩の力を抜く。


ララが用意した紅茶を飲みながら、三人で会話が弾む。


「ミロクちゃん、樹奈ちゃんのこと、すっごく気にしてるんだね。」


瑠美が優しく語りかけると、ミロクは小さく頷いた。


「そなたたちが思う以上に、樹奈姉様はわらわにとって大切な存在じゃ。」


「ふーん。じゃあ、どうするの?」


ララの軽い問いかけに、ミロクは静かに答える。


「もう一度、わらわが真剣に向き合い、樹奈姉様に気持ちを伝える。それしかないのじゃ。」


「真剣に向き合うか~。よし、今度それの練習付き合ってあげるよ!」


「……そなた、面白半分で言っておるのではないか?」


「そんなことないって!ほら、私って優しいからさ。」


二人のやり取りを聞いていた瑠美は、微笑みながら紅茶をすする。


「ミロクちゃん、無理に頑張らなくても大丈夫よ。あなたなら、きっと大丈夫だから。」


瑠美の言葉に、ミロクは深く頷き、決意を新たにした。


「ありがとう。わらわ、もう一度頑張ってみるのじゃ。」


次回予告


ミロクの新たな挑戦と、ララが語るお気に入りの曲とは……。物語は次章へ続く。

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