第39話 松田さんと星乃母娘の危険な湯煙ナイト

なゆたの爆弾発言


湯船には立ちのぼる湯気、そして異様に緩んだ空気が満ちていた。松田さんは湯船の縁に腕をかけ、くつろいだ表情を浮かべている。その穏やかな時間を、なゆたの一言が一瞬でぶち壊した。


「ねぇ、松田さん。」


「ん?なんや?」


松田さんが首をかしげると、なゆたは体を乗り出し、にやりといたずらっぽく微笑んだ。


「今夜は私を食っちゃう?ほら、38歳だけど、まだまだピチピチ……いや、ちんちくりんだけどね♪」


なゆたはない胸を突き出してドヤ顔で、松田さんを誘った。


まるで、小さな娘がお父さんに「私、おとなになったらお父さんのお嫁さんになる」って言ってる光景みたいだった。


雫の爆発的リアクション


その瞬間、脱衣所で体を拭いていた雫の動きが止まった。そして、驚愕の表情で振り返り叫ぶ。


「お母さん!!何言ってるの!?ちょっと待って、それ完全にアウトでしょ!!」


なゆたはキョトンとした表情で、


「え?ジョークだよジョーク!松田さんってユーモア好きでしょ?場を盛り上げてあげようと思って~。」


なゆたは全く悪びれる様子もなく、屈託のない笑顔を浮かべる。


「ジョークじゃなくて、完全にダメだから!!しかも、全然笑えないから!!」


松田さんはそのやり取りを静かに眺めていたが、次の瞬間、肩を揺らして湯船の縁で大笑いした。


松田さんの冷静な返し


「いやいやいや、先生なぁ…。ジョークやったらええけどな、見た目が小学生やと洒落にならんで。」


「でも、中身は38歳だからセーフでしょ?」

「これでも未亡人だよ?」


なゆたが無邪気な笑顔でそう言うと、松田さんはさらに苦笑を深めた。


「いや、中身が何歳でもなぁ…。これ、テレビやったら完全にアウトやで。」


「テレビ出ないから大丈夫だよ!家の中ならセーフ!」


「セーフかどうかのライン探してる時点でアウトや!」


松田さんの鋭いツッコミが浴室に響く。


雫の全力のツッコミ


「お母さん!!いい加減にして!38歳って自分で言ってるなら、少しは常識的な振る舞いしてよ!!」


雫が湯船の端を叩いて声を荒らげる。


「でも、松田さんなら面白がってくれるかなって思ったんだけどな~。」


なゆたは不満げに唇を尖らせる。


「いや、もう松田さんも困ってるから!見て、この困惑した顔!」


松田さんは自分の顔を指で指しながら、照れくさそうに笑った。


「困ってるっちゅうか、まあ、おもろいけどな。」


松田さんの軽妙な返し


松田さんは湯船から少し上体を起こし、湯気を払うように手を動かしながらなゆたに向かって指をさす。


「まぁ、先生が何を言いたいかは分からんでもないけどな。もし俺が先生を“食う”なんて言うたら、それこそ警察沙汰や。」


「じゃあ、警察に捕まらない範囲で楽しむのはアリってこと?」


なゆたが小首をかしげて真顔で言うと、松田さんは即座に湯船を叩いた。


「いやいやいや!どんな範囲探っとんねん!そんなんアカンに決まっとるやろ!」


湯船の中で二人が肩を揺らして笑う姿に、雫は唖然とするしかなかった。


雫の限界


「もう無理!!」


雫はタオルを握りしめながら大きなため息をついた。


「お母さん、本当にその発言、危険すぎるから!松田さんも苦笑いしてるじゃん!」


「そうかなぁ?松田さん、悪い気はしてないでしょ?」


なゆたが松田さんに振ると、松田さんは肩をすくめながら笑った。


「まあ、悪い気せんっちゅうか、ほんまおもろい家族やな。」

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