第38話 星乃家の湯煙騒動~松田さんと雫の災難な湯船会話~
松田さんの「触らせてや」発言
浴室の湯気が立ち込める中、湯船の端に寄りかかる雫。隣には肩までお湯に浸かりながらリラックスしている松田さんがいた。
不意に松田さんが体を向け、にやりと笑みを浮かべる。
「なぁ、雫ちゃん。ちょっとだけ触らせてや。」
その一言に、雫はピタリと固まった。
「……触らせて…って、何をですか?」
「(えっ、何言ったのこの人!?触らせる!?)」
湯船の中で緊張感をまとった声を震わせながら問い返す雫。松田さんはまるで日常の何気ない会話を続けるかのように首をかしげ、答える。
「いや、君のその髪の毛や。ええ色してるやん。」
「……髪の毛!?それだけ!?」
「そうそう。さっきから気になっとったんやけど、艶もあって、ええ感じやな~思てな。」
「胸でも触るって言うと思った?残念、うちの嫁さんの方が大きいしなw」
「wじゃねえよ!!」
雫の怒りとツッコミ炸裂
一瞬安堵した雫。しかし、すぐに怒りが湧き上がる。
「髪の毛!?そんな紛らわしい言い方するなぁぁぁっ!」
「紛らわしいって言われてもな~。普通に触らせてほしいだけやん?」
「普通じゃないです!この状況でそんなこと言ったら、誰だって誤解しますから!」
「それに、髪だってNGです!!」
松田さんは、怒りに震える雫を前に全く悪びれる様子もなく、腕を湯船の縁に置いて肩までお湯に浸かり直す。
「いやぁ、雫ちゃん、ほんまええツッコミするわ。俺、こういうの好きやで。」
「褒めてる場合じゃないです!私、心臓止まりそうだったんですけど!」
「けど君の髪、ほんまきれいやで。将来、美容師とかでもええんちゃう?」
「髪と仕事、全然関係ないから!!」
なゆたの乱入
そのタイミングで、浴室の扉が勢いよく開いた。湯気の向こうから顔を出したのは、星乃なゆただった。
「雫ちゃん!松田さん、髪触らせてもらえた?」
「お母さん!?聞いてたの!?ていうか、むしろ止めてよ!!」
なゆたは、全く悪気のない笑顔で応える。
「だって松田さん、雫ちゃんの髪褒めてたのよ?素直に嬉しいでしょ?」
「嬉しくない!むしろ迷惑かけられてるの!!」
「なんで触らせなきゃいけないのよ!」
松田さんは苦笑いを浮かべながら、湯船から少し身を乗り出してなゆたに言う。
「なゆた先生、娘さんほんまツッコミ上手いなぁ。これ、将来の大物芸人やで。」
「でしょ~?私の教育の賜物なの♪」
「教育ってどういうこと!?むしろお母さんのせいでこんな状況になってるんじゃない!!」
松田さんの名(迷)言
湯船からゆっくりと立ち上がり、バスタオルを腰に巻く松田さん。雫は視線の行き場に困りながら顔を背ける。
「まぁ、なんやかんや言うても、君ん家はええ家族やで。こういう温かい雰囲気、俺、好きやな。」
「誰のせいで雰囲気ぶち壊れたと思ってるんですか!?」
その言葉を背中で受けながら、松田さんは悠々と浴室を後にする。
その後ろ姿に向かって、雫は全力でツッコミを続ける。
「もう二度とこんなことやめてくださいね!!お母さんも反省してください!!」
「今すぐ、俺を追い出せへんだけ雫ちゃんは優しいな!!」
「もう、ああ言えばこう言う!!」
なゆたはそんな雫を横目にクスクス笑いながら言う。
「でも松田さん、雫ちゃんのこと気に入ったみたいね。これ、もしかして将来有望かも?」
「お母さん、余計なこと言わなくていいから!!」
星乃家の湯けむり騒動は終わらない
こうして、星乃家の湯煙騒動は一応の幕を下ろした。しかし、この家族にとって「日常」とはこういうものなのだろう。
湯気の向こうで聞こえるなゆたの笑い声と、松田さんの気の抜けた冗談。そして、雫の全力のツッコミ。
「はぁ…こんな生活、私の寿命が縮むわ…。」
雫はバスタオルをぎゅっと握りしめ、今日も一日頑張った自分をそっと慰めるのだった。
ゆたの乱入、「私も入るね」
湯船の隅で、雫が松田さん相手に全力のツッコミを繰り広げているときだった。
浴室の扉が突然ガチャリと開き、湯気の向こうから無邪気な声が響く。
「じゃあ、私も入るね~♪」
その言葉とともに、頭にタオルを巻いただけの母・なゆたが浴室に顔を出した。
「……はぁ!?お母さん、何してんの!?」
娘の前で知らない男の人と裸の付き合い。しかも、曲がりなりにも自分だけのものだと思ってた母の体を父でもない男性に見られるのは自分の裸を見られる以上に嫌だった雫。
当の本人は、
「えっ、見られて恥ずかしくないかって?38にもなって何を恥ずかしがることがあるの?」っていう始末。
「もう、なゆちゃん!!」
「村田さんも、あんまりジロジロ見ないで下さい!!」
「いや、俺、松田やけど!?」
目を見開き絶叫する雫を尻目に、なゆたは当然のように足を湯船に突っ込む。
なゆたのマイペースな言い分
「だって、松田さんと雫ちゃんだけじゃ、絶対楽しくないでしょ?私も一緒に盛り上げ役として入らなきゃ!」
「いやいやいや!なんでそんな発想になるの!?風呂で“盛り上げ役”とか聞いたことないんだけど!」
雫の抗議を全く意に介さず、なゆたは湯船に飛び込むようにポチャンと浸かる。
「ふぅ~、極楽極楽♪」
「小さい体だから邪魔にならない」と言い放つなゆたに、松田さんは肩をすくめながら湯船の隅に寄った。
「ほんま、なゆた先生は自由やなぁ。でも、狭くなるで?」
「いいのいいの。みんなで一緒に入った方が楽しいでしょ?」
「その“みんな”の中に松田さんが入ってる時点でおかしいから!」
「なんで男の人を風呂に入れるかな?」
雫は全力でツッコミながら湯船の端に身を寄せるが、なゆたはご満悦の様子だった。
松田さんの反応と家族の「形」
松田さんは軽く笑いながら、湯船の縁に腕を乗せて言った。
「でもまぁ、こういうのも悪ないな。家族みたいに心を開ける関係って、ええもんやで。」
「家族って…お母さん、松田さんは家族じゃないからね!ただの“有名人”だからね!」
「まぁまぁ、家族みたいに仲良くしてくれるだけで、松田さんも嬉しいでしょ?」
松田さんは笑いながら頷いた。
「確かにな。こんな破天荒な家族やったら、毎日ネタに困らんわ。」
「家族ネタにしないで!それに、この家族の破天荒さで私が一番困ってるんですけど!」
雫の限界
湯船に浸かる二人を前に、雫は限界に達した。
「もういい!!私、出る!!」
勢いよく湯船から立ち上がると、タオルを掴んで浴室を飛び出そうとする。
しかし、その瞬間、なゆたが手を伸ばして雫の手首を掴んだ。
「待って待って!せっかくだから、もう少し一緒にいようよ~。」
「いやです!!こんなカオスな状況、耐えられるわけないでしょ!」
「でも、ほら、松田さんもきっと雫ちゃんともっと話したいと思ってるよ?」
「そんなの松田さんに聞いてください!!」
松田さんは苦笑いしながらタオルで額を拭く。
「いや、俺はもう十分やわ。君らの会話、めっちゃおもろいし。」
浴室では、まだ湯船に浸かるなゆたと松田さんが談笑していた。
「雫ちゃん、ほんと可愛いわよね~。あの素直さ、大好きなの。」
「うん、ええ娘やな。ツッコミのセンスも抜群やし、芸人にスカウトしたいくらいや。」
なゆたはニコニコしながら松田さんに言う。
「でも、雫ちゃん、きっと将来は私以上に立派になると思うんですよね~。」
「そら楽しみやな。家族ネタだけで笑い取れるようになるかもしれん。」
なゆたは微笑みながら首を振る。
「ううん、もっと大きな舞台で輝くと思うの。雫ちゃんならできるから。」
「ええなぁ、親の愛情ってやつやな。」
湯煙に包まれた浴室の中で、二人の穏やかな笑い声が響いていた――その笑顔を知らない雫が、別室で布団を被りながら「もう嫌だ…」と呟くとも知らずに。
雫の心の声
「今日のお風呂タイム、もう一生忘れないと思う。でも、絶対にトラウマとしてだけどね。」
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