第37話 雫と松田の初めての夜、事件。
星乃家の浴室事件――まさかの松田さんがシャワー中!?
母娘の夜
夜10時、なゆたが仕事から帰宅したころ、雫はすでに夕食を済ませていた。お風呂も入りたかったが、なゆたのために湯船を温めて待っていた。
「お母さん、お風呂湧いてるから、先に入っちゃってよ。」
「雫、待っててくれたの? ごめんね。でもちょっと急ぎの仕事があって…。先に入っちゃってて!」
雫は仕方なく頷いた。最近、なゆたは仕事が立て込んでおり、帰りが遅い日が増えていた。それでも雫はグレるどころか、母を思いやるほどしっかり者だった。
「でもさ、最近のなゆちゃん、本当に忙しそうだよね。数学まで教えるようになったんでしょ?」
「まあね。雫、私のこと『なゆちゃん』って呼んでるけど、ちゃんと“お母さん”として見てくれてるよね?」
「うん、大好きだよ、お母さん。」
そんなやり取りを交わしつつも、今日は湯船での親子団らんはお預けになりそうだった。
予期せぬ浴室の侵入者
仕方なく一人でお風呂に入ることになった雫は、脱衣所で大きなため息をついた。
「たまには一人も悪くないか…。よし、ゆっくりしよう。」
そう言いながら浴室に入り、シャワーを手に取ろうとした瞬間だった。
「えっ……!?」
白い湯気の中、見知らぬ男の後ろ姿が目に飛び込んできた。堂々とシャワーを浴びているその人物は、なんとテレビで見かける松田さんだった。
「な、なんで!? 誰!?」
驚きの声に振り向いたのは、間違いなくお笑い界の大物・松田さん。彼はシャワーを止めると、のんびりとした口調で言った。
「ん? 君か。ちょっとここ、借りてるだけやから気にせんでええよ。」
「気にしないわけないでしょ! なんで松田さんが家のお風呂にいるのよ!」
松田さんの言い分
松田さんはタオルで髪を拭きながら、至って冷静に返事をした。
「いやな、なゆた先生に頼んだら、ここなら安心やって言われてな。ほんま助かったわ。」
「え!? お母さんが許可したの!? ちょっと待って!」
雫は慌てて浴室の扉を振り返り、大声で叫んだ。
なゆたの弁解
扉の外から、なゆたの明るい声が聞こえてきた。
「ごめんね、雫ちゃん! でも松田さんに頼まれたら断れないでしょ? すごい業界の大物なんだから!」
「だからって、お風呂貸す!? 普通におかしいでしょ!」
「大丈夫よ~! ほら、松田さん、意外と紳士だしね。」
その言葉に、雫はふと松田さんをじっと見た。どう考えても男性の体で、まったく安心感が湧かない。
「どう見ても男の人なんだけど!?」
松田さんの締めくくり
松田さんは涼しい顔でバスタオルを腰に巻きながら、雫に一言。
「まあまあ、風呂ぐらい気ぃ使わずに入りぃな。人生、そんなんで損してたらもったいないで。」
「誰のせいでこんなことになってると思ってるの!?」
雫の叫び声が浴室に響き、外ではなゆたのクスクス笑う声が漏れていた。
星乃家の湯煙劇場~雫と松田さんの奇妙な湯船時間~
突如として訪れた混沌
夜10時、なゆたが帰宅した後の星乃家は、いつもなら落ち着きを取り戻す時間帯。しかし、その日は違った。
「雫~、お風呂先に入っちゃっていいよ~」と声をかけられたが、妙な違和感が胸をよぎる。
それでも、湯気の立ち込める浴室に足を踏み入れた雫が目にしたのは、松田さん――テレビでおなじみの大物芸人――が堂々とシャワーを浴びる姿だった。
「な、な、なにやってるんですかーーーっ!!!」
絶叫する雫に対し、松田さんは肩越しに振り向き、あっけらかんと答える。
「いやな、なゆた先生が『どうぞ』言うから、遠慮なく入らせてもろてんねん。」
「なんでそうなるんですか!! お母さんの許可で済む問題じゃないでしょ!?」
不可解な湯船タイム
なゆたの強引な説得(というか押しつけ)に負け、雫は湯船に松田さんと一緒に浸かるという、人生で最もありえない状況に追い込まれていた。
湯船の隅に縮こまる雫とは対照的に、松田さんは湯船の縁に腕をかけ、リラックスした様子で話し始める。
「君んとこの風呂、意外と広いな~。ええ感じやん。」
「どうでもいいですよ、そんなこと…。ていうか、普通こんな状況ありえないでしょ!」
松田さんは雫の苛立ちを全く意に介さず、湯気の中でのんびりと続ける。
「そうか? 人生、たまにはこういうこともあるやろ。ほら、風呂くらい気楽に入らな損やで。」
「誰のせいで気楽じゃないと思ってるんですか…!」
松田さんの的外れな興味
松田さんは湯船で少し体を伸ばし、ちらりと雫を見ながら質問を投げかけた。
「ところで君、学生やろ? 何年生や?」
「……一応、学生ですけど。」
「一応ってなんやねん。ちゃんと学校行っとるんか?」
「行ってません。自宅学習してます。」
「へぇ~、えらいやん! 俺なんか勉強嫌いやったから、そんなん絶対無理やわ。」
突然の褒め言葉に、雫は困惑しつつも返す。
「いや、褒められても全然嬉しくないんですけど…。ていうか、なんでこんなにリラックスしてるんですか?」
「そら、風呂やからな。緊張する風呂とか聞いたことないで。」
なゆたの乱入
そんな中、浴室の外からなゆたの明るい声が響いてきた。
「雫ちゃん、松田さんと仲良くできてる~?」
「お母さん! どういう状況作ってるか分かってますか!? 最悪なんですけど!」
「なんで、男の人と娘を一緒の風呂に入らせるかな!?」
「って言うか、いつ入ってきたのよ!」
「え~、松田さんはテレビ業界の大物なんだから、貴重な体験だと思って仲良くしてよ~♪」
「貴重って言えばなんでも許されると思わないで!!」
松田さんはそんな騒ぎにも全く動じず、肩をすくめて笑う。
「お母さん、ええキャラしてるなぁ。バラエティ出たらウケるで。」
「こんな家族が出たら炎上しますから!!」
締めくくりの一言
最後に松田さんは湯船から上がり、髭剃りを始めた。涼しい顔で一言。
「まぁ、なんやかんや言うても、君、ええ娘やな。こういうの大事にせなあかんで。」
「何が大事なんですか! 全然意味分かんないし!」
扉の向こうでなゆたのクスクス笑い声が聞こえる中、雫は全力でツッコむのだった。
「もうこんな経験二度とゴメンです!!」
雫の恥ずかしい災難はまだまだ続く。
「あっ、なんか元気になってきてるわ!なんでやろな?」
「もう、ヤダ!!」
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