猫耳メイドさん、仏様を拾う。

櫻絢音

悟りとデジタル救済の始まり

第1話うちの正装、猫耳メイドなんですが何か?でも拾ったのは仏様でした

「私の言葉はただの言葉ではない。迷いを超える一歩として、自らの行動にうつしてみなさい」


言葉の力を借りて行動し、成長することを促す言葉や。今考えたら、あの意味不明だらけやった摩訶不思議な捨て仏さんの言葉も今やったら分かる。




あれはとある年の秋の夕暮れ。商店街を気まぐれでふらりと歩いていた。周りの視線が刺さるけど、別に気にせえへん。だって、この猫耳メイド姿は私の「正装」やし。普段は引きこもりで、旦那の隣でダラダラしてるけど、たまにはこうして外に出るのも悪くない。


そやけど、この商店街には見慣れへん「異物」が混じってた。夕陽に照らされて、まるで金色に輝く肌と長い髪が風に揺れる少女…なんや、この人、普通ちゃう。思わず足が止まって、じっと見つめてしもうた。


「おいおい、礼子さん、なんや変な格好してどうしたん?」


いつもの知り合いかと思て声かけたら、返ってきた答えに思わず目を見開く。


「礼子?それは誰かな?私はミロク。」


穏やかな微笑みを浮かべた金色の肌の少女が、さらりと答える。いやいや、何言うてんねん…ほんまに礼子さんちゃうんか?なんか怪しげな新しいアプリか何かの実験でもしてるんやろか?


「はぁ?あんたほんまに礼子ちゃうんか?ってか、その金ピカな肌、どうしたん?メイクでもそんな光らへんで…まさか、何かの撮影か?」


私の質問にも少女は微笑みを崩さへん。まるでこっちが変なこと聞いてるみたいな顔で、穏やかに首をかしげる。なにやこの異質なオーラ、見たことないタイプやわ。


「私は転生してきたのだ。私の名はミロク。弥勒菩薩の魂を持っているらしい。命の本質について、今は学んでいるところなんだが…」


「転生って…ゲームちゃうねんで!ほんまもんの仏さんがこんなところで出歩くとかあり得んわ!」


思わず突っ込んでしもたけど、このミロクって子、どこ吹く風みたいに淡々としてる。むしろ、なんやそのまっすぐな瞳は。私が変なこと言うてるみたいに見んといて!


「この世には私の力が必要らしい。私は人々を救うためにここにいる。でも、君はそのメイド服に耳…猫耳…そのような服装のまま、どうして外に?」


いきなり突っ込まれて、私は思わず肩をすくめる。猫耳メイド姿なんて、これが「正装」やし!それに、旦那はんが「可愛い」って言うから着てるだけや。なにがあかんの?


「うちに言わんといてや!これがうちの正装や!まぁ…旦那はんに可愛い言われたから着てるだけやけど…って、なんでそんなに堂々としてんねん!」


ミロクは穏やかな表情を浮かべたまま、まっすぐに私の目を見つめてきた。その瞳は、夕陽に照らされて不思議な光を帯びてて、まるで時間が止まったみたいな感覚になる。


「堂々と?それが普通だろう?私は人々の苦しみを救う使命を持っているから、遠慮している場合ではないのだ。」


…いやいや、そんなこと普通は考えへんし。私が戸惑ってる間に、ミロクはさらに近づいてきて、真剣な眼差しでこう言うた。


「君も苦しんでいるのだろう?心の奥にある迷いと向き合わなければならない時が来る。それが私の知る限り、命の本質に近づく道なのだよ。」


「な、なんやて?うちは別に苦しんでへんし。ただ、あんたがあまりに変やから気になっただけや!…せやけど、あんたの言葉、ちょっと不思議な響きあるな…」


なんやろ、これ。言葉だけやのに、心がほんのり温かくなってくる。まるで、ふわっと包み込まれてる感じ…。気づけば、私はじっと彼女を見つめてた。


その時、ミロクが静かに手を差し出してきた。夕陽が彼女の髪を金色に染め、その姿はまるで、どこかの物語から飛び出してきたような神々しさがあった。


「私と一緒に来ないか?君の心にある『本当の願い』を見つける旅に。」


「ちょ、ちょっと待て!なんでそんな真剣な顔して誘うねん!あんた…ほんまにただの変な子やと思ってたけど、ちょっと興味湧いてきたわ…」


まさか、こんな子に心を揺さぶられるとは思わへんかった。これが運命ってやつなんやろか…?


ふと気がつくと、夕陽が完全に落ちて、空が赤から紫に染まり始めていた。時計を見ると、もう5時を過ぎとるやん!話に夢中になって、すっかり時間を忘れてもうた。


「あっ、話してる間に5時すぎてもうた。はよ帰らないご主人が心配する。ってか、6時までにご飯食べさせへんかったら、あの人晩御飯抜きよるからなー。」


慌ててスマホをポケットにしまい、ミロクに向き直る。


「ごめん、ミロクちゃん。はよ帰らなご主人様がお腹空かせてるから、先帰るわな!」


一礼して家路につこうとした瞬間、スカートの裾が軽く引っ張られた感触に足が止まる。振り返ると、ミロクがじっとこちらを見上げていて、いつもの穏やかな表情やけど、なんや不思議な雰囲気を感じる。(1/2)


「ミロクちゃん、どうしたん?話してほしいんやけど…」


小さな声で何かを呟くようにミロクが口を開くが、その声が微かすぎて聞こえへん。私はもう一度耳を澄まし、彼女に問いかけた。


「……」


「ごめん、聞こえへん。」


すると、ミロクはほんの少し頬を赤らめながら、ぽつりと言った。


「お腹、空いた。」


その一言に、私は思わず吹き出しそうになる。どこか神秘的で異質な存在やと思ってたのに、ただお腹が空いただけなんかい!


こうして、私は思いがけず「捨て仏」を拾うことになってしまったみたいや💦。


「あー、ご主人様…これ、なんて言うやろ?新人の弥勒菩薩さんが晩御飯に参加とか、どんな言い訳せなあかんのやろか…?」

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