第14話すれ違う想いとホットミルクの悲劇
和室での読経と平和なひととき
「色即是空、空即是色…」
落ち着いた声が和室に響き、ミロクの銀髪が揺れるロウソクの光に照らされて神秘的な雰囲気を醸し出す。
机にはホットミルクの入ったカップと「今日の説法ネタ」が書き込まれたノート。そして、「いつか使おう」と手つかずのままの美顔ローラーが鎮座している。
「迷える子羊を救うこと、それがわらわの使命じゃな。」
自分に言い聞かせるように呟き、ミロクが経本を閉じた瞬間、勢いよく扉が開いた。
樹奈の登場と焦りの予感
「ミロク様、相談があるだよ!」
飛び込んできた樹奈はどこか焦った様子。目が泳ぎ、いつものクールさはどこへやら。眉間に深いしわを寄せ、息を切らしている。
「おお、樹奈姉様。また何か面白いことでもあったのか?」
にっこり微笑むミロクに、樹奈は答えずドサッと座り込む。その手は膝の上で小刻みに震えていた。
「ふむ、これはただごとではないな。」
ミロクの中で勝手に警戒レベルが上がる。「これは迷える子羊の重大案件!」と使命感を強めながら声をかける。
「さあ、何があったか話してみよ。わらわが救ってみせよう!」
しかし、樹奈の第一声は予想の斜め上を行くものだった。
サバゲー場の話題とミロクの勘違い
「昨日、サバゲー場に美術の先生が来てたんだよ。それで、あたしの軍服姿を見て文化祭のモデルになれって…」
「ほう、それは素晴らしいではないか!」
ミロクの目が輝く。「そなたの美しさを世に知らしめる良い機会ではないか!」
「あ、ありがとだよ…」一瞬頬を赤らめる樹奈。しかしすぐに立ち上がり、声を荒げた。
「って違うだよ!そんな話じゃない!」
突然のツッコミに、ミロクはポカンとした表情で聞き返す。「では何が問題なのじゃ?」
「目立つのが嫌なんだよ!バイト先にバレるかもしれないし…」
「…ふむ、それほどの悩みではないと思うが?」
的外れな答えに、樹奈は頭を抱える。「はああ…ミロク様にはわかんないだよ!」
ホットミルクでさらに大混乱
ミロクは机の上のホットミルクを差し出しながら、励まそうと微笑む。
「これでも飲んで、心を静めるがよい。」
「…ありがと。」渋々受け取る樹奈。しかし、その手はどこか力が入らず、カップを持つ指先が震えている。
「そなたはもっと自信を持つべきじゃ。」
ミロクは樹奈の肩にそっと手を置き、真剣な表情で語りかける。
「そなたの魅力は、外見だけでなく、その内面にもあるのじゃ。」
樹奈が少し顔を上げた瞬間、ミロクはふと立ち上がった拍子に机の上の別のホットミルクに肘をぶつけた。
「わらっ…!」
カップはスローモーションのように宙を舞い、白い液体がゆっくりと樹奈の頭上に降り注ぐ。
ノリツッコミと教えの気づき
「ちょっ、ちょっと!何してるだよ!」
頭から全身にホットミルクを浴びた樹奈は、びしょ濡れになりながらミロクを指さす。
ミロクは驚いた表情を浮かべながら、慌てて手を合わせた。
「す、すまぬ!これは不可抗力じゃ!だが、ある意味これも浄化の儀式と言えなくも…」
「全然違うだよ!」
勢いよく突っ込む樹奈。しかし次第に目が潤み始めると、ポロリと涙をこぼして立ち上がった。
「…もういいだよ!」
樹奈はびしょ濡れのまま部屋を飛び出す。
弥勒菩薩の教えと新たな決意
残された部屋には、ミルクの香りと冷たくなりつつある空気が漂う。ミロクは深々とため息をつき、部屋の中央に座り直した。
「迷える子羊を救うのは、やはり難しいものじゃな。」
目を閉じ、静かに心を落ち着ける。ふと、経本を手に取ったミロクは、弥勒菩薩の教えを思い出した。
「…裁く者ではなく、受け入れる者。」
「弥勒菩薩とは、全ての迷いや痛みを慈しむ存在。それが、わらわの務めではなかったか。」
新たな決意を胸に、ミロクは経本を開く。小さな和室の中で、彼女の朗々とした声が再び響き渡った。
「色即是空、空即是色…」
笑いと気づきのすれ違いを胸に、ミロクは迷える子羊を救う道を再び歩み始めた。
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