第13話ミロクの目覚めと再確認

鏡の中の新しい自分


制服に身を包み、鏡の前に立つ。いつもとはまるで違う自分がそこにいる気がして、心が少しざわめいた。


黒猫3姉妹――亜依、すず、樹奈――が嬉しそうに口々に「似合ってるよ!」と褒めてくれる姿は微笑ましい。照れくさいながらも、この姿を見せることが彼女たちの期待に応えることだと思い、静かに心を落ち着けた。


「わらわが…JKモデルとは…。なかなか悪くないではないか」


SNSを確認すると、すでにフォロワーたちからの反響が届いていた。「可愛い!」「神々しい!」といったコメントが次々と流れ、フォロワー数が増えていく。これが「JK」の力なのかと、驚きと少しの嬉しさを感じた。


画面越しの説法


配信をスタートし、画面越しに語りかける。


「皆の者、わらわがこのような姿になったのは、迷える子羊たちに新たな光を届けるためであるぞ!どうじゃ?この姿で心に平安が訪れぬか?」


コメント欄は興奮の声であふれていたが、その中にちらほらと疑問の声が混じる。「菩薩がこんな格好をしていいのか?」「本当に正しい道を進んでいるのか?」


その一言が胸に突き刺さる。


「わらわのやり方は間違っているのか…?」

心が曇り、自分の存在そのものが揺らいでいくようだった。


菩薩としての役目


「ミロクちゃん、大丈夫か?」


亜依の優しい声に我に返る。心配そうな黒猫3姉妹の眼差しに触れ、曇った心が少しずつ晴れていくのを感じた。


「すまぬ…わらわは、少し迷っておるのかもしれぬ」

弱々しくそう告げると、すずがふわりと肩を叩いてくれた。


「ミロク様、どげんこともないばい。あんたはあんたばい!」

「そうだよ、ミロクさん。あたしらだって、ミロクさんがいてくれればそれでいいんだよ」樹奈もにっこり笑ってくれる。


彼女たちの言葉に励まされ、私は自分の心を静かに見つめ直した。


忘れていたものを思い出す


心の奥底にしまい込んでいた記憶が、ふと蘇る。


「そうだ…私は『JKモデル』になることが目的ではない。わらわが守るべきは、外見や評価ではなく、全ての人々の心の迷いそのものではないか…」


胸に手を当て、静かに呟く。


「菩薩とは、裁く者ではなく受け入れる者。すべての痛みと迷いを、両手で包み込むのが私の務めなのだ」


その言葉を口にした瞬間、心にかかっていた霧がすっと晴れるように感じた。私が本当に大切にすべきものが見えたのだ。


「ミロクちゃん、ええこと言うやん!それでこそ、うちらの菩薩様やで!」

亜依の満足げな言葉に、すずと樹奈も嬉しそうに微笑む。


新たな一歩


心の迷いを振り払った私は、再び配信画面に向き合い、静かに語りかけた。


「皆の者、わらわはJKモデルとして、ただ皆に楽しみを届けるだけでなく、すべての者の迷いや痛みを受け入れることを誓うぞ。これが、わらわの務めであることを改めて胸に刻んだのじゃ」


フォロワーたちからは熱烈な反応が届く。「ミロク様、やっぱり素晴らしい!」「その言葉に救われました…」といったコメントで画面は埋め尽くされた。


黒猫3姉妹は、そんな私を温かい眼差しで見守ってくれている。この家族のような存在が、私の支えなのだと改めて感じた。


闇の中の影


配信を終え、皆と笑い合う私たち。しかし、その影でただならぬ気配を放つ人物が静かに動き出していた。


街灯の下、遠くから私たちの様子をじっと見つめる女性の影。その目には得体の知れない執念が宿っていた。


「また、ダメだったわ…」


冷たい風が吹き抜ける中、彼女の呟きが夜に溶ける。彼女の視線の先にあるのは、私――ミロクだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る