第6話ミロクのSNS救済(前編)
私はミロク。現世に降り立った菩薩として、迷える子羊たちを導き、心を救済するという使命を背負っている。しかし、この現代において、いったいどうすれば多くの人々に救いの手を差し伸べることができるのか、悩んでいた。
そんなある日、ふとテレビで「SNSで発信し、人々に影響を与えるインフルエンサー」なる存在が紹介されているのを目にした。それを見た瞬間、私は確信した。今こそ「SNS」を始め、迷える子羊たちの心に届く言葉を投げかけるべきだと!
早速、黒猫のすずに相談することにした。「すずよ、SNSとはいかなるものか、教えてくれぬか?」と尋ねると、すずは私の熱意を訝しげに見つめ、ため息をつきながら答えた。
「SNSっちゅうのは、みんなが自由に写真とか言葉を投稿して、フォロワーちゅう見てくれる人を増やしていくもんばい。でも、ミロク様がするっちゃね…?」
「そうだとも!菩薩たるもの、現代においても多くの迷える者を救わねばならぬ。それがこの時代ならば、SNSこそ最適な場であろう。」
すずは「ほんとにそれで救えるっちゃろうか…」と怪訝な顔をしつつも、使い方を教えてくれることになった。まずはプロフィールを設定し、「菩薩のミロク」と名乗り、「迷える子よ、私に問いを投げかけなさい」という紹介文を書き加えた。これでよし、すぐにでも救済が始まるはずだ!
しかし、1日経っても2日経っても、フォロワーはゼロのまま。私はひどく落胆し、「なぜ彼らは救済を望まぬのか…」と自問するばかりだった。
そんな私を見かねたのか、すずが提案してくれた。
「ミロク様、もっと可愛らしい写真ば載せたら、フォロワーも増えるかもしれんよ?」
「可愛らしい…写真?」
「うん、なんか、こう…菩薩って感じじゃなくて、ちょっとだけポーズとか、笑顔とか…」
その提案に最初は「菩薩の威厳が損なわれるのでは?」と戸惑ったが、すずの「迷える人たちに近づくためやん」という一言で納得した。私の使命は救済なのだから、そのためには少々の妥協も必要だろうと自分に言い聞かせた。
すずの指導のもと、「救済の一環」という言い訳を掲げながら自撮りを開始する。最初はぎこちない笑顔だったが、次第に慣れ、軽くピースサインを添えるなどしてみた。出来上がった写真をSNSに投稿するやいなや、フォロワーが増え始めたのだ!
「おお、すずよ!我が救済の力がようやく世に届き始めたようだ!」
すずは苦笑いを浮かべつつも「まぁ、これでいいなら良かね」と頷いてくれた。こうして、私のSNS活動が本格的に始まった。
しかし、喜びも束の間。集まってきたフォロワーたちのプロフィールやコメントを見ていると、どうにも様子がおかしい。「ミロクちゃん、オカルトについて語ってほしい」とか「ミロクちゃんの神秘的な力に興味がある」といったコメントが目立つのだ。
さらには、「ミロクちゃん、脱いでや」と書かれたコメントまで目に入った。私は一瞬戸惑ったが、「これもまた救済の一環かもしれぬ…」と考え、軽く脱ごうと服の襟元に手をかける。しかし、すずのツッコミが入った。
「ミロク様、やめんね!それ救済ちゃうけん!」
その一言で我に返り、「ふむ、どうやら私は菩薩の力を誤解していたようだ…」と赤面しながら反省することに。しかし、フォロワーが増え続けている事実に「やはり私は人々の心に届いている」と自信を深め、再び心を奮い立たせたのだった。
フォロワーが増え、救済活動が順調に進んでいるかに思えたが、相変わらず奇妙なリクエストが届く。すずは私が怪しい方向に走らないか警戒しつつも、私の暴走にツッコミを入れ続ける日々。
果たして、私は本当に迷える子羊たちを救えるのか?
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