第17話裏目の優しさと癒しのハグ
ミロクの決意
「今日は絶対、樹奈姉様を全力で支えるのじゃ!」
朝の光が差し込む中、ミロクは目を輝かせながら大きく伸びをした。
文化祭の目玉企画であるポスター撮影が迫る中、樹奈の不安げな表情が頭をよぎる。
「わらわがそばにおれば、樹奈姉様も安心するじゃろう!」
しかし、彼女の「善意」が裏目に出て、事態を複雑にするのはいつものこと――。
撮影現場の緊張感
文化祭のポスター撮影会場となった美術室は、普段のアトリエ然とした空間とは一変し、華やかで少し奇妙な雰囲気を醸し出していた。
遮光カーテンが光を遮り、セットの周りを囲む撮影用のライトが、部屋全体に幻想的な明暗を作り出している。黒い背景布が中央に広がり、古びた木製の椅子が「主役の座」を示すように配置されていた。
「この部屋、なんかすごい雰囲気だね……」
軍服に着替えた樹奈が、襟元を整えながら小声で呟く。
「黒猫さん、大丈夫よ!」
元気に応じたのは、幼女のような見た目の美術教師、星乃なゆただった。彼女は巨大なカメラを抱え、軽快な足取りで現れると、期待に満ちた目を樹奈に向けた。
「軍服姿のあなた、もう芸術そのものよ!このポスター、絶対に文化祭で一番注目されるわ!」
「そ、そうですか……」
褒められ慣れていない樹奈は、顔を赤らめながら目をそらす。
(この先生、本当に無邪気すぎるよ……恥ずかしいったらないっての!)
緊張を解こうと深呼吸を繰り返していたその時――。
ミロクの乱入
「樹奈姉様!準備はできておるか!」
バン!と勢いよく扉を開けて現れたのはミロクだった。サイズの合わない軍服を身にまとい、頭には何かのイベントで拾った軍用ヘルメットを被っている。
「な、なにしてるだよ、ミロク様!」
樹奈は驚きの声を上げたが、ミロクは胸を張って答える。
「わらわも撮影に加わろうと思うてな!共に映ることで、樹奈姉様の魅力がさらに引き立つじゃろう!」
「絶対余計なことだよ!」
樹奈が止める間もなく、ミロクは堂々と撮影セットに立ち、椅子に腰を下ろしてポーズを取る。
「ふむ、こうしていると風格が増すのじゃな。」
「素晴らしい!」
その姿を見て、なゆたの目がさらに輝く。
「ミロクさん、その堂々たる佇まい……圧倒的な存在感ね!二人でポスターに映れば、完璧な仕上がりになるわ!」
「やめてください!私一人でいいんです!」
慌てる樹奈をよそに、ミロクは満足げに頷く。
「ふむ、では全力でサポートするのじゃ!」
「だからそれが問題なんだってば!」
セクシーポーズの要求と三人のすれ違い
「さあ、まずは樹奈さん!」
なゆたはカメラを構えると、勢いよく指示を出した。
「右手を腰に当てて、ちょっと体をひねってみて!」
「え、こうですか?」
樹奈がぎこちなくポーズを取ると、なゆたは満足げに頷きながら続けた。
「いいわね!でも、もっとセクシーに!こう、敵を従える感じで!」
「セクシーにって、そんなの無理だって!」
樹奈が赤面しながら縮こまる。その様子を見たミロクが椅子の上で仁王立ちになり、堂々とポーズを決めた。
「ふむ、こういうことか?」
片足を椅子に乗せ、片手を腰に当てたその姿は、どう見ても時代劇の将軍だった。
「ミロク様、それは時代劇だよ!」
「時代劇ではない!これは菩薩の風格を示しておる!」
「いや、どう見ても力士じゃん!」
樹奈とミロクのやり取りを聞きながら、なゆたは一人で感動の声を上げる。
「この二人の掛け合い……完璧な芸術ね!」
「どこがだよ!」
樹奈の叫び声が、美術室に響き渡った。
癒しのハグと再挑戦
撮影はエスカレートを続け、ついに樹奈の心が限界を迎えた。
「もう無理だよ……あたし、こんなの向いてない……」
そう呟くと、樹奈はその場にしゃがみ込んでしまう。
「樹奈姉様!」
ミロクが慌てて駆け寄るが、その前に小さな体のなゆたが歩み寄り、そっと樹奈を抱きしめた。
「大丈夫、黒猫さん。あなたは素敵よ。」
その温もりと言葉に、樹奈の心は少しだけ軽くなった。
「ありがとう……先生。」
しかし、その直後。
「それに、その虎耳……やっぱり触りたい!」
「ちょ、やめてください!」
なゆたの思わぬ発言に、樹奈の顔が真っ赤になる。
ポスター完成と見せない理由
撮影は波乱の中でようやく終了した。
「いいわ、最高のポスターができるわね!」
なゆたは満足げに頷きながら、カメラのデータを確認している。
「ど、どんなのになったんですか?」
樹奈が恐る恐る尋ねると、なゆたは小さな指を口元に当ててニヤリと笑った。
「それは、文化祭当日のお楽しみよ!」
「えええっ!?絶対変なポスターになってるでしょ!」
樹奈の抗議も空しく、完成したポスターを見ることは許されなかった。
「まあまあ、樹奈姉様。ポスターなど気にせず、次はもっと大胆な挑戦をするのじゃ!」
「絶対やらないよ!」
夕暮れの美術室に、樹奈の叫び声がこだました。
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