第16話 番外編 「黒猫樹奈の文化祭ハンティング! ~虎耳美少女と不良男子の危険なゲーム~」
プロローグ:文化祭の幕開け
「全員、サバイバルゲームのルール説明をよく聞いてね!」
校庭に設置された特設ステージで、司会の生徒が拡声器を使って声を張り上げる。その声に応じて、校内外から集まった観客たちのざわめきが一層大きくなる。
文化祭の目玉イベント「サバイバルゲーム大会」。校舎全体を戦場に見立て、参加者がチームごとに分かれて戦い抜くゲームだ。最後まで生き残ったチームが優勝となり、豪華賞品が贈られる。
「優勝チームには豪華賞品があります!みなさん、ぜひご参加ください!」
その声に応じて、観客たちからは歓声と拍手が湧き上がった。文化祭特有の賑やかな雰囲気が、さらに会場全体を包み込む。
一方で、参加者たちの中には興奮している者もいれば、不安そうにしている者もいる。その中の一人、黒猫樹奈は特設ブースの隅で黙々と準備を進めていた。
制服の上にミリタリー風のベストを重ね、ペイントガンを手に取りながら深呼吸を繰り返す。
「これ、本当に大丈夫なのかな……」
心中に湧き上がるのは不安ばかりだ。
とはいえ、彼女には逃げる選択肢はなかった。幼馴染のすずに「文化祭のメインイベントに出ないなんて、つまらんやん!」と煽られ、さらに星乃なゆた先生に半ば強引に登録させられた結果だった。
「なんで私、こんな目に……」
溜息をつきながらペイントガンの弾を補充していると、隣で準備している男子生徒たちが笑顔で話し合う声が聞こえた。
「俺たち、絶対優勝しような!」
「おう!あの優勝賞品、マジで欲しいしな!」
ちらりと聞こえたその言葉に、樹奈はふと首を傾げた。
「そういえば優勝賞品って何なんだろう?」
誰も詳しいことを教えてくれなかったことを思い出し、少しだけ不安が増した。しかし、その答えが後に彼女を大いに困惑させることになるとは、この時の樹奈には知る由もなかった――。
チーム編成と「着ぐるみ事件」
「それじゃあ、クジでチームを決めてください!」
司会者の指示で参加者たちは列を作り、それぞれクジを引いていく。
樹奈が引き当てたチームは、自分を含めて4人。運命を共にする仲間たちの顔を見渡すと、どこか頼りなさそうな雰囲気の女子ばかりだった。
「樹奈ちゃん、よろしくね!」
元気よく声をかけてきたのは、小柄でふわふわの髪が印象的な小南聖奈。彼女の笑顔は人懐っこく、どこか幼さが残っている。
続いて、控えめに自己紹介をしたのは山本瑠衣。落ち着いた物腰と柔らかい声が印象的で、優しい雰囲気を持っている。
最後に、少し恥ずかしそうに俯きながら一礼したのは佐伯咲。彼女は寡黙なタイプのようで、最初の挨拶も声が小さすぎて聞き取りづらいほどだった。
全員サバイバルゲーム初心者であることが一目で分かる。
「……これ、大丈夫なんだろうか……」
樹奈の胸には不安が募るばかりだ。
しかし、それだけでは済まされない事態が彼女を襲った。
「樹奈さん、これを着てください!」
スタッフに渡されたのは――まさかのクマの着ぐるみ。
「いやいやいや、何これ!?」
毛並みのふわふわしたクマの着ぐるみは、見た目こそ可愛らしいが、サバイバルゲームにはまったく不向きだ。動きにくいし、目立ちすぎる。
「どうして私だけこんな格好なの!?」
困惑と怒りを抱えたまま原因を探るべく辺りを見回すと、あの人物が目に入った。
「なゆた先生!」
叫びながら駆け寄る樹奈に、星乃なゆたは「あらまあ」とのんびりと微笑む。
「あの、これどういうことですか!?」
「いや、樹奈さんが着ぐるみを着たら、もっとイベントが盛り上がると思ったの!」
「盛り上がるって……こんなの、ただの的じゃないですか!」
「でも、ほら。文化祭よ?楽しい方がいいじゃない!」
そう言いつつ、なゆたはくるりと背を向けてその場を去ろうとする。
「待ってください、先生!」
追いすがる樹奈の叫びも虚しく、なゆたは土佐弁混じりの言葉を残して去っていった。
「これが文化祭の醍醐味やき!」
「あの変態教師……!」
悔しさを噛みしめながらチームに戻ると、メンバーたちは口々に「樹奈ちゃん、可哀想……」と同情してくれる。その優しさに、少しだけ救われた気がした。
サバイバルゲーム開始
開始の合図が響き渡ると、校舎全体が戦場と化した。
「よし、みんな気を引き締めて!」
樹奈はチームメイトに声をかけながら、慎重に廊下を進んでいく。
しかし、早速不安が現実となる。
「樹奈ちゃん、これどうやって撃つの?」
瑠衣がペイントガンを構えながら困ったように問いかける。
「えっと……トリガーを引くだけなんだけど、まずは安全装置を外して……」
「わあっ!」
説明を始めた瞬間、瑠衣は間違えて引き金を引いてしまい、床にインクが飛び散る。
「ちょっと待って、まだ撃たないで!」
樹奈は慌てて手を伸ばすが、すでに他のメンバーもガチャガチャとペイントガンをいじり始めていた。
「これ、難しいね……」
咲は小さく呟き、聖奈は「あ、私の弾、もう無いんだけど!」と慌てている。
「開始早々これかよ……」
樹奈は深いため息をつきながらも、リーダーとしての責任感を奮い立たせた。
「いい?とりあえずみんな、安全装置を外さないで。私が指示するから、それに従って動いて!」
こうして、彼女たちの文化祭サバイバルゲームが始まった。
最初の接敵
「敵チームがいるかもしれないから、静かにね。」
樹奈は声を潜めながら、先頭に立って校舎の廊下を進む。緊張感が高まり、みんなの足音がやけに響く。
「ちょっと待って、あそこ……」
角を曲がろうとした瞬間、樹奈は足を止めた。その先には、筋肉ムキムキの男子生徒たちが待ち伏せしているのが見えたからだ。
「筋肉チームじゃん……」
彼らは校内でも有名な運動部のメンバーで、身体能力の高さとチームワークの良さから「優勝候補」と噂されている。
「どうするの?」
聖奈が小声で尋ねる。
「……ここは私が引き付けるから、みんなは逆方向に逃げて。」
「でも!」
「大丈夫、任せて。」
樹奈はクマの着ぐるみをぐっと整えると、廊下の真ん中に飛び出した。
「おーい、こっちだよ!」
わざと大きな声を出しながら、ペイントガンを連射する。
「おい、あのクマだ!」
筋肉チームのリーダーが声を上げると、他のメンバーも一斉に樹奈を追いかけ始めた。
「今のうちに行って!」
仲間たちに指示を飛ばしながら、樹奈は廊下を全力で駆け抜ける。
「くそ、意外と足が速いじゃないか!」
追いすがる筋肉チーム。樹奈は着ぐるみのせいで動きにくさを感じながらも、廊下の角を曲がる。
「ここだ!」
突如立ち止まり、振り返ってペイントガンを構えた。角から飛び出してきた筋肉チームの先頭を狙い撃つ。
「しまった!」
リーダーが声を上げると同時に、彼の体がペイントで染まる。
「リーダーがやられたぞ!」
その隙に残りの筋肉チームも次々と撃破され、樹奈は大きく息をついた。
「樹奈ちゃん、すごい!」
逃げたはずの仲間たちが戻ってきて、拍手を送る。
「これぐらい当然だよ。とりあえず次に進もう。」
彼女は冷静を装いながらも、心の中では少しだけ得意げだった。
校舎裏での危機
順調に敵を倒していった樹奈チームだったが、校舎裏に差し掛かったところで異変が起きた。
「待って……何か変な感じがする。」
樹奈が立ち止まると同時に、突如として不良男子チームが現れた。
「おい、こんなところで何してるんだ?」
リーダー格の男子が、下品な笑みを浮かべながら歩み寄る。彼の仲間たちもそれに続き、樹奈たちを取り囲む形になった。
「これは……ゲームのルールじゃないよね?」
聖奈が怯えた声を上げる。
「全員武器を捨てろ。それから――」
リーダーは嫌な笑みを浮かべながら、続けた。
「お前らの中で誰が一番脱げるか、勝負しようぜ。」
その言葉に、樹奈の怒りが沸騰する。
「ふざけないで!」
「じゃあ、お前が脱げよ。そしたら許してやるよ。」
樹奈は唇を噛みしめ、タンクトップに手をかけた。しかし、その瞬間――
「何しとるとね、この変態どもが!」
轟音と共に現れたのはすずだった。
彼女はペイントガンを構えることなく、不良たちを素手で次々と倒していく。
「ちょっと、どういう力持ってるの……」
樹奈が呆然と見守る中、すずは数分で全員を制圧した。
文化祭の頂点を懸けた一騎打ち
「助かったよ、すず。」
「感謝はいらんばい。……それより、ここからはお前との勝負ばい!」
突然ペイントガンを向けられ、樹奈は目を丸くする。
「えっ?」
「お前が本当にこのゲームを制するつもりなら、私を倒してみろたい!」
こうして、文化祭のクライマックスとなる一騎打ちが始まった。
ペイントガンを撃ち尽くした二人は、最終的にナイフ型スポンジ武器での接近戦へと移行。
「すず、ほんと容赦ないじゃん!」
「当たり前たい!甘い顔しとったら、勝てんばい!」
激しい攻防の末、樹奈は猫騙しを使い、見事すずを仕留めた。
表彰式とエピローグ
ゲーム終了後、優勝者として呼ばれたのは隣のクラスの男子チームだった。
優勝景品として発表されたのは――樹奈のセクシーポスター。
「これ、どういうこと!?」
驚く樹奈をよそに、男子たちは顔を真っ赤にしながら辞退を申し出た。
その場の勢いで、樹奈は男子チームのリーダーに軽く頬にキスをする。
「えっ……」
観客たちは大歓声を上げ、女子メンバーたちも次々とキスを真似する。
一方、舞台袖でなゆた先生が手を挙げながら叫ぶ。
「私も!私もキスして!」
もちろん、完全に無視された。
後日談
文化祭を終えた樹奈は、クラスメイトたちとの距離が縮まったことを実感していた。特に小南聖奈とは親友として深い絆を築き、今後の学校生活に自信を持てるようになった。
この文化祭は、彼女にとって仲間との繋がりを学び、人見知りを克服するための大切な一歩となったのだった――
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